第42話 神兵様に緊急連絡だ! 急げっ!

「かしこまりました」


 優雅にスカートの恥をつまんで礼をしたナータは、ニクシーが住んでいた家に突入した。すぐに打撃音が聞こえてくる。残っていた柱や壁は完全に壊れてしまい、更地になってしまうほど激しい攻撃だ。


 当然ではあるが、大きな戦闘も発生している。陽が落ちて週は暗くなってきたが、それでも歩いている人たちはいるので、通報ぐらいはされているだろう。


 地面が揺れるほどの大きな振動を感じると、静寂が訪れた。ケガ一つしていないナータが歩いて戻ってくる。


 片手には神兵の頭だけがあった。切断面から察するに、体から引き抜いたらしい。


「五十秒で終わらせました」


 にっこりと笑っているが、それどころではない。衛兵が集まってきているのだ。


 この場から逃げるぞと言おうと思ったら、ナータは神兵の頭を衛兵に投げつける。


 俺が命令する前に勝手に行動した。

 驚きや怒りよりも興味深さが勝つ。


 独立思考はできるように設計されてはいるが、ここまで自由に行動できるほどではなかった。感情を手に入れた副産物だと考えるべきだろう。


 心酔する相手がいるという部分も含めて、かなり人に近づいている。


「え、神兵さま!?」


 地面に転がる神兵の顔を見て、衛兵たちは震えていた。戦っても絶対に勝てない相手だと悟ったようだ。


「私は自由の神に仕える兵である! 死にたいヤツからかかってこい!」


 ナータのヤツ、よく考えたな。全ての責任を邪神に押しつける計画らしい。


 先ほど頭を投げた行動も、邪神の手先と考えれば納得である。らしさ、というのが演出できて良いじゃないか。


 これなら派手に暴れられそうだな。


「神兵様に緊急連絡だ! 急げっ!」


 隊長らしき男が叫ぶと衛兵の一人が走り出した。


 どうしますか? と、聞きたそうな目をして、ナータが俺を見ている。


「ヤれ」


 命令を実行するべく、ナータは地面に落ちていた木片を素早く拾うと投擲。衛兵の背中に突き刺さった。


 周囲はまた、静まりかえる。


 どさっと倒れる音だけが、耳に残った。


「脅しは、これで充分だろう。逃げるぞ」


 今から走り出したとして、俺たちを追ってこようなんて思わないはず。


 正門を目指して移動すると、ナータも後を追ってくる。


 狙っていたとおり、衛兵たちは立ち止まったままだ。


 夜になって人がいなくなったこともあり、表通りを順調に進む。このまま都市の外に出られると思ったのだが、どうやらそこまで上手くはいかないようだ。


 目の前に神兵が五体もいる。


「マスター」

「わかっている」


 俺は立ち止まり、ナータは追い越して、そのまま直進する。


「邪魔です。どきなさい」


 警告を無視した神兵は短槍を構えた。接敵するまであと数メートルとなった時に、空から二メートル近い斧が落ちてくる。


 ナータは跳躍して手に取ると、落下の勢いを利用して神兵に叩きつけた。


 二体は吹き飛び、残りの三体が短槍を突き出す。


「遅いですね」


 斧を横に振るって穂先を弾き飛ばした。


 バランスを崩した神兵は動けない。ナータは斧で一体を、もう一体は蹴りを放って吹き飛ばす。最後の一体は怯えた顔をしたまま呆然と立ち尽くしていた。


「ダリアと似たような反応だ。恐怖を感じる経験がなかったから、こういった場で適切な動きができないんだろう」


 などと分析している間に、ナータは斧を振り下ろして神兵を縦に切り裂いた。目の前の脅威は排除したので、完全に破壊できてない神兵どもにトドメを刺していく。


 俺は壊れた部品をいくつかポケットにしまっていた。


「マスター、私の近くに来てください」


 緊張感が俺にも伝わってきた。

 即座に部品拾いを中断すると、ナータの後ろに移動する。


「何があった?」

「神兵の軍団です」


 正門のドアは開かれていて、その先には短槍をもつ神兵が数十はいた。見えない範囲にもいると考えれば百を超えるだろう。


 性能差があるとは言っても、ナータだけで全てを処理するのは難しい。完全破壊されることまでありえる。


 そんなこと俺が指摘するまでもなくわかっているだろうが、感情を獲得したナータは恐れていない。眉をキリッと吊り上げ、迫り来る神兵を睨んでいる。


「マスターの邪魔をする存在は、すべて破壊します」


 恐れを感じない機械ゴーレムは頼もしい。壊れ、動けなくなるまで、マスターを守ろうとするのだから。


 これが本来あるべき姿なのである。


「行ってこい」


 嬉しそうに微笑むと、ナータは斧を持ったまま走り出した。


 数秒後には先頭の神兵に攻撃を始める。最初は順調に斬り飛ばしていたが囲まれてしまうと、どうしても動きが鈍ってしまう。


 短槍の穂先が服に当たり、破れる。柔軟性と硬質性を両立したナータの肌を貫くのは難しいだろうが、時間をかければ破壊は可能だ。予想していたとおり、破壊されるのも時間の問題である。


 それでも俺は、動かずじっと戦いを見守る。


 他にも仲間がいるからだ。


「うりゃぁぁああ!!」


 外壁から飛び降りたアデラが神兵を踏み潰し、さらに近くにいたヤツを殴りつけた。少し離れた場所では、ダリアが短槍を振り回して神兵と戦っていた。


 元同僚を相手にしても気にしてはいないどころか、笑顔だぞ。俺がお手製で作った体を全力で動かせるから楽しいのだろう。


 神兵の圧力が減ってナータは自由に動けるようになった。斧を振るって順調に破壊していく。


 勝ったな。


 そう確信すると、後ろから声をかけられた。

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