第30話 49号。それが私の管理番号です

「では、人類を管理している首輪を取りに行くか」


 ピクッと、眉が動いて反応したのはナータだ。


 また危険な場所に行くんですね、なんて目をしている。


 過保護すぎないか? いや心配性とでも言ったほうが良いかもな。


「お前達は荒れたシェルターの通路を掃除して欲しい。外は俺だけ――」

「私も行きます」


 と、言われてしまうのは想定内である。むしろあえて言わせているところがあった。一度ナータの話を受け入れてやれば、追加のお願いはしにくくなるだろうからな。


 最初に譲ることによって心理的な抵抗感を作る計画で、感情を持った機械ゴーレムだからこそ効果があると見込んでいる。


「人間を狩ることになるんだぞ? お前にできるのか?」

「できます」


 人類のために働くという設定を持っている機械ゴーレムが、マスターの命令によって人間を害する。矛盾した行動だ。初期の機械ゴーレムだと、命令を処理できずに機能停止したこともあったらしい。


 だが現在は改善されて、マスターの命令を優先するとなっている。

 ナータは迷うことなく人間を殺すと言い切れたのだ。


「では同行を許可する」

「マスター、感謝いたします」


 深く頭を下げたナータから視線を外して、アデラを見る。


「シェリーやニクシーから商人が通るルートを聞いたことはあるか?」

「ありません。お役に立てず、ごめんなさい!」


 マスターである俺の助けになれなかったこと、罪悪感を覚えているようだ。


 起動したばかりだというのに感情を持っている。どういうことだ? 長い年月をかけて経験を蓄積し、その結果として感情を獲得する、という仮説が間違っているのだろうか。それとも重要な事実を見落としているのか?


 知りたいことが多すぎて、思考が色んな所に飛んでしまうのは悪い癖だな。

 今は首輪についてだけ考えることにしよう。


 目をキラキラさせながら、俺の言葉を待っている神兵に聞いてみるか。


「お前はどうだ?」

「もちろん知ってる。けど無償では教えたくない。取引させてもらえないかな」


 ナータが殺気だったので目だけで制した。


「お前、取引できる身分だと思っているのか? クスリを使って情報を引き出しても良いんだぞ」


 クスリという単語を聞いただけで、神兵は足をガクガクとさせて恐怖を露わにした。


 だが、目は屈していない。押し寄せる感情に耐えている。


 俺がその気になれば機能停止すらさせられてしまう状況で、何を求めているんだ? と、興味を持ってしまった俺の負けだ。


 門前払いせず聞くことにしよう。


「内容を言ってみろ」

「名前……私の名前を作って欲しい」


 恥ずかしそうにして言ったお願いが、名前を作って欲しいだと? 意味がわからない。やっぱりクスリの使い過ぎで、どこかが故障してしまったのかもしれない。


「何を言っている。お前だって名前があるだろ?」


 量産型の機械ゴーレムは見た目が同じだから名前を付けない人間もいたが、上級機械ゴーレムなら管理しやすいように名前を付けるはずだ。


「49号。それが私の管理番号です」

「上級機械ゴーレムらしいネーミングだな」


 番号であればすぐにつけられる。効率を優先しているところが、俺の知っている上級機械ゴーレムと変わりがない。


 同じ機械ゴーレムなら受け入れると思っていたのだが、どうやら目の前にいる49号は違うようである。


「それは名前ではありません」

「名前とは個体を個別に認識し、呼ぶときに使う。49号だって立派な名前じゃないか」


 本気で言ったのだが、どうやら俺以外は違うようだ。49号だけじゃなく、ナータやアデラからも冷たい目で見られている。


 どうやら俺の考えは、機械ゴーレムにとって許しがたいようだ。


「マスター! 呼び名って重要なんだよ!」

「そうなのか?」


 最近名前を付けたばかりのアデラが、小さな胸を張りながら質問に答える。


「そうだよ! マスターの特別になれたんだって、実感がもてるんだよ」

「管理番号だって、そいつしか持っていないユニークな数字だから同じじゃないか?」

「全然違うって!! 数字なんて考えずに決められるでしょ?」


 機械ゴーレムを作っていた工場でもそうだったが、連番なので機械的に割り振るだけだ。考えるヤツはいなかっただろう。


「雑に割り振られた数字が名前なんて、代わりがいるんだよと言われてるようなもで、結構辛いんだよ! 思い入れがないんだよ!」


 うんうんと、ナータや49号まで首を縦に振って同意していた。敵対しているくせに、こいつら仲が良いな。


 これも感情を獲得した故の言動だろうか。


「事情はわかった。だが、なぜ俺に求める? お前が崇めている神とやらにお願いしてみたらどうだ?」

「それは無理……結局、私たちは上級機械ゴーレムの手足でしかないから」


 神兵と名乗っているが、上級機械ゴーレムとはかなりの距離があるようだ。

 越えられない壁のようなものがって、名づけをする価値すらないと思われているのか。


「情報を提供してくれるなら名付けても良いが、上級機械ゴーレムを裏切ることになるぞ。それでもいいのか?」

「あんなヤツ、どうでもいい! マスター登録までお願いしたいぐらい!」


 ナータとアデラからプレッシャーを感じる。また機械ゴーレムを増やすんですか? なんて思っていそうだ。


 ふむ、どうするかな。

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