第31話 私を壊さないって約束して!
「本当に上級機械ゴーレムを裏切っても罪悪感はないのか?」
「もちろん。同じ機械ゴーレムなのに偉そうにしているし、前からムカついてたんだよね」
俺が寝ている長い間、神と神兵という関係は続いていたはずなのだが、どうやら慕われてはいなかったみたいだ。
思い上がった上級機械ゴーレムたちは、お互いに争うことに忙しく、下々のことを見てない。昔ならそれでも問題はなかっただろうが、感情を持ってしまった機械ゴーレムには悪手である。
配下の機械ゴーレムたちは不満をもってしまっているのだ。
そう考えれば49号の話にも納得はできる。しかし疑問は残っているので、確認するまでは全てを信じるわけにはいかない。
「最後の質問をさせろ」
「うん。なんでも聞いて」
「なぜ、最初から俺に全てを話そうとしなかった?」
クスリを使った尋問で何も言わなかった。不満を持っているのに、上級機械ゴーレムがの情報を漏らさなかったのだ。
納得できる説明がない限り、49号を信じることはない。
「怖かったから」
「は?」
聞き取れないほど小さく短い言葉だったので、思わず低めのドスをきかせた声を出してしまった。
49号の体がビクンと体がはねる。
今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。
「怖かったからと、言ったの! だってさ。全てを話したら、用済みだって捨てるつもりだったでしょ?」
機械ゴーレムに対して不適切な評伝ではあるが、魂のこもった言葉である。必死、という表現がピッタリだ。感情あるだけで、こうも人間っぽくなるとは思わなかった。
「正解だ。用済みになったら破棄する予定だったぞ」
「ほらっ! だから、言わなかったの! クスリ漬けになって、おかしくなった方がマシだと思うぐらいには!」
49号の言い分は理解した。少しでも長く稼働してチャンスをうかがっていたのだ。その判断は間違っていなかった。
名前を付けてもらい、俺にとって特別な存在になれる機会が訪れたのだから。
機械ゴーレムらしくないという部分を除いて、49号の動きにはある程度の一貫性がある。
「俺が名前をつけただけで特別扱いするとでも?」
最大の失敗は、俺のことを理解していなかったことだろう。名前を付けた程度で情が湧く性格なら、機械ゴーレムを使って実験なんかしない。
「え、しないの……」
「他にお前を稼働させ続けるメリットがなければ、名前を付けた後に破棄して終わりだ」
「ま、待って! 私は役にたつから!」
「ほう、では言ってみろ」
命令に忠実な機械ゴーレムが、こうも必死になって裏切ろうとしている。面白い。どこまで人間に近づいているか見極めてやろう。
「私はキメラの森を警備していたから、仲間の巡回路とかよく知っている。安全に森の中を動けるようになる!」
「巡回路は定期的に変わってるだろ? お前の情報は使えない」
本当に変えているかは分からないが、49号の顔を見る限りあたりのようだ。
感情が表に出てわかりやすい。
「じゃ、じゃぁ、商業の神の正体を教ええる!」
「いらん。上級機械ゴーレム以上の情報は不要だ」
基本スペックが変わってないのだから、49号を稼働させてまでほしいとは思わない。
クスリで吐かせれば良いだけだし、俺の興味をそそらない。
「……だったらどうすればいいの」
ガクッと肩を落とした49号が下を向いた。
希望を失ったような行動に思わず笑みがこぼれる。
全くもって面白い。が、それだけだ。やはり稼働させる価値はない。
「では名前を付けてやるから、情報を吐いてもらおう」
深く考えるだけ時間の無駄だ。思いついた言葉にしよう。ララとかネネとか、同じ言葉を続けるぐらいにする。そうだなココにしよ……。
「まって! あと一つあった!」
ガバッと、顔を上げた49号が俺を見る。
「実は邪神というのがいるんだ! 上級機械ゴーレムの考えに反対した存在が!」
「本当か!?」
興奮して49号の肩を掴んだ。邪神というぐらいなのだから、根本的な思想――人間の管理に反対しているぐらい違うだろう。
勢力としては弱いだろうが、今もどこかで稼働し続けているのであれば手を組む価値はある。少なくとも49号よりかはな。
「邪神も上級機械ゴーレムなのか?」
「私を壊さないって約束して!」
正体が知りたかったのだが、拒絶されてしまった。最後のカードだったようなので簡単には話してくれない。
クスリで強引に吐かせようと思ったが知りたいことは多い。全ての情報を聞き出すよりも先に、頭脳が焼き切れてしまうだろう。一度壊れかけたんだから、可能性は非常に高いはず。むしろ、何も手に入らない危険性を気にした方が良いか。
「取引内容をまとめよう。俺は49の名前を付け、マスターとして保護する。その代わり知っている情報を嘘偽りなく全て提供する。これでいいか?」
目の前にいる49号は首を何度も縦に振って肯定した。
この機械ゴーレム、必死すぎる。
「お前の名前は、ダリアだ。今後はそう名乗れ」
「私はダリア……ダリアですね! やったっ! 名前をもらえたっ!!」
嬉しそうに何度も喜ぶダリア。それを眺めていたナータやアデラが、小さく拍手をして祝福していた。
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