第29話 首輪の改造は?
「どうされますか?」
ナータが聞いてきた。考えはまとまっていない。
護衛と密告制度、どちらを利用するか悩んでいるのだ。
商人を護衛できれば確実に都市に入れるが、最低でも首輪は必要になる。またキメラハンターの免許証のようなものも求められるだろう。正式ルートだからこそ、都市の住民だと示す必要があるのだ。
集落の密告制度は滅んだ都市に住んでいた人間、もしくはその末裔なので、身分を証明する必要はない。むしろ首輪がない事実の方が重要視されるだろう。俺としてはこっちの方がやりやすいのだが、隠れている集落を探すのに時間がかかる。
また密告者を本当に保護するとは限らないので、機械ゴーレムに囲まれて実験台にされる危険性は残っている。
どちらも手段としては悪くないのだが、決め手に欠けるな。
もう一押しあれば良いんだが。
「悩まれているのでしたら、クスリ漬けにしたアレに聞いてみてはいかでしょうか?」
なしか、ありかでいえば、ありだな。
少し時間をおいたし、しゃべれるようになっているかもしれん。
ダメ元で聞いてみるか。
「治療所に行く」
「お供します」
「いや、三人は通路片付けをしてくれ」
当時は違法とされていたクスリを使って、神兵を尋問している姿なんて見られたくはない。シェリーやニクシーは無関係でいて欲しかった。
「ですが……」
ナータが必死に食いついてくる。心配性だな。
……まぁ、こいつだけなら連れて行っても良いか。
「では、ナータだけ付いてこい。他は片付けを任せたぞ」
会話を強引に打ち切って、ダイニングから出て通路を歩く。数歩後ろにはナータがいた。
治療所のドアを開けると、ベッドに横たわっている神兵がいた。手足は縛られていて、さらにベッドにも繋げられ、動けないようになっている。
近くにはアデラが壁により掛かりながら立っていて、監視をしていた。
「尋問を再開する。アデラは後ろに下がれ」
「え、マスター危ないよ!?」
「これは命令だ」
強く言うと先ほど以上の反論は出なかった。小さくため息を吐くという、人間らしい仕草をしてからベッドから離れ、俺の後ろに立つ。ナータと横並びになった。
ドアを静かに閉めてから神兵の前に立つと、頬を何度か叩いてから声をかける。
「起きろ」
神兵の目が開いた。
眼球だけを動かして周囲を観察してから、最後に俺を見る。
「ここは?」
「治療所だ」
「またクスリを使うの……?」
怯えた声で聞いてきた。調教の効果は充分に出ているようで、マスター登録してないのに従順になっていそうだ。感情さまさまというところか。
「お前の態度次第だ」
「何でも言うことを行くから許して! アレをされて、頭を壊されるのはもう嫌っ!」
体をよじりベッドが軋むほど、暴れ出した。みっともなく懇願する姿は、無力な一般市民のようだ。簡単にキメラを殺せるほどの力を持つ神兵には思えない。
頭を掴んで、強引に俺の方に向ける。
「落ち着け。質問に答えろ」
「クスリ、使わない?」
「ああ、使わない」
俺の言葉を信じたようで暴れるのをやめた。素直でよろしい。機械ゴーレムなんだから、この姿が正しいのだ。
「上級機械ゴーレムたちにバレず、都市に入りたい。どうすればいい?」
「……難しい問いだね」
「だからお前に聞いている。教えろ」
神兵は黙ったままだ。クスリで少し頭脳をやられたのか、考えをまとめるのが遅いな。処理速度が低下したのかもしれん。
「一番可能性が高いのは、私が野生の人を見つけたと報告に戻ることかな」
「そうすると、どうなる?」
「普通は神兵の一人が都市に連れて行って尋問をし、情報を抜き取ったら処分する」
「ほう、お前は俺を殺すつもりなのか?」
神兵から離れると、治療所に置かれた机から注射器を取り出した。
「ま、待って! 最後まで聞いてっ!!」
「いいだろう。さっさと言え」
注射器をちらつかせながら、大人しく待つことにした。
「私が連れて帰って、都市で尋問すると見せかけて逃がす計画はどう? って言いたかったの」
「仮に俺を解放できたとして、管理の首輪はどうする?」
「管理機能だけを停止させた首輪は都市にあるんだ。それを渡すよ」
「そういって、首輪を付けさせて管理するつもりだろ」
注射器を持ちながら歩き、神兵の腕を持つ。俺が近づくだけで体はこわばり、動かなくなった。
「そ、そんなことしないっ!」
「信じられないな」
「信じて! 本当にあるんだから! なんだったらすぐに持ってくるよ!!」
バカなのか? いや、俺の手によってバカにしたのか。
シェルターの存在を知った機械ゴーレムを、都市に帰すなんてことは絶対にしない。
「首輪の改造は? それはできるか?」
「できるっ! できますっ!」
そのぐらいの知識は共有されているか。だったらやることは決まった。首輪を見つけなければ話にならない。
この世の中にはキメラハンターという死亡率が高く、消えてもよい人間は大量にいるようだから、そいつらから奪い取れば良いだろう。
罪のない人間を殺すことに少し心は痛むが、俺のたために諦めてくれ。
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