第28話 負けた方はどうなる?
「都市に入るとしたら、商人の護衛に扮するのが一番だな」
「え! ジャザリーさんが都市に入るの!?」
そういえば呼び出しただけで、シェリーには何も伝えてなかったな。
「ニクシーからのお願いでな。両親の写真を取りに行く」
「あぁ、そういうことね」
どうやらシェリーは、ニクシーの事情をある程度知っているようだ。写真にどれほどの価値があるのか理解している。
「それで、都市を出入りする人たちの情報を集めていたんだね。だったら、とっておきの情報があるよ」
腰に手をあえてて胸を張り、シェリーが自信ありげに宣言した。
俺に褒めてもらいたいから、健気にも情報を提供しようとしているのだろう。言動が軽めなので何も考えてないように見えるが、意外と従順な性格だよな。
「それは興味深い話だ。教えてくれないか?」
俺にとって興味深いとは、最大の褒め言葉だ。それほどシェリーの話は価値があると思っている。
待ちきれないので数歩進んで近づき、顔を近づけた。
「え、ち近くない?」
「いいだろ。気にするな。それよりも早く聞かせてくれ」
「うん……わかった」
照れているのか、頬を染めて目をそらしている。
どうやらこの状態のまま話をするようだ。
「実はね。都市の外で生きている人がいるんだよ」
「本当かッ!?」
機械ゴーレムに支配された世界でも、自由に生きている人間がいると知って、興奮が止まらない。シェリーの鼻が当たるほど近づく。
ニクシーが手を顔に当てて嬉しそうにしている姿が見えた。
「話すから! ちょっと離れて!」
手で押されてしまい、距離ができてしまった。
シェリーは怖がっているようにも見える。
副作用がでているなかで、このような反応をしているのだ。普通ならもっと怖がっていたことだろう。少しだけ先ほどの行動を反省してしまった。
早く聞きたいが、シェリーが落ち着くのをじっと待つ。
「そんな怖い目で見ないで……」
「すまん。少し、興奮しすぎたようだ」
目頭を押さえて目を閉じる。
しばらくしてシェリーの声が聞こえ始めた。
「神様同士の戦争ってたまにあるんだよね。大抵は痛み分けで終わるんだけど、時折、都市を完全破壊して終わる場合もある」
感情を持ってしまったが故に、上級機械ゴーレム同士で争う、か。
本来なら協力し合う立場であるはずなのに。
不合理な動きをするのも神様らしいと言えるか?
長時間寝ていただけで、面白い世界になったものだ。
「負けた方はどうなる?」
「壊して放置だよ。他の神が作った物や、従っていた人なんていらないみたい」
間違って生きた人間は救えないから殺す。なんて、考えなんだろう。なんて傲慢な。
決められた道しか進まなかった人間が自由を与えられ、果たして生きていけるだろうか……?
多くはすぐに死ぬだろう。それこそペットを野に放つようなものだからな。長生きは出来ない運命にあるはず。
「でね、ここから先が重要なんだけど、たまに生き残りがいるんだ。しかも集落が、いくつかあるぐらいの人数はいるらしいよ」
「それはすごいな」
感嘆の声を上げながら目を開けてシェリーを見た。どや顔をしていた。とっておきの情報だったんだろう。
どこにでも例外はあるようだ。
まさか生き残って生活するだけじゃなく、集落まで作れるとは。
「自由になった今だからわかるけど、誰にも保護されず自分たちの力だけで生きるなんて、普通じゃできないよ」
無視意識にだろうが、シェリーは首を触っていた。
不自由だが管理され、やることが決まっていた生活は安定していた。多くの人たちは、平穏な人生を続けられることの方が多かっただろう。
だが自由となれば、行動に重い責任がのしかかる。自ら考えて動き、生き残っていかなければいけない。この落差は俺が思っている以上に大きく、当事者は今までにない不安を感じていただろう。
「で、その人達なんだけど、たまに神兵が襲って集落を潰すみたいなんだよね。生き残りは都市に持ち帰って実験をしているという噂」
機械ゴーレムの制約に人体実験は含まれてないからな。より効率的に人間を管理する方法を探るため、色々とやってるんだろう。そのぐらいだったら俺もやるので、行為自体を咎める気はしない。道具のくせにとは思うが。
「ヤツらはどうやって集落を見つけるんだ?」
「密告者だよ。情報を提供すれば恩赦をもらえるみたいだし、仲間を売って都市に移住する、という人もいるみたい」
やはり密告制度も導入していたか。
快適な暮らしに戻りたければ、仲間を売れ。昔から人類が使ってきた手法だ。都市外部の人間であればデメリットも少ない。
問題は、密告者がどうやって機械ゴーレムと連絡を取るかだ。
普通に生活していたら会えないだろう。
「どうやって密告するんだ?」
「都市に近づけば良いんだよ。機械ゴーレムの方が勝手にやってくるんだ」
シェリーは簡単に言ったが、そこまでたどり着けるヤツは少ないはず。
だからこそ機械ゴーレムが支配する世界で、密告から逃れて残っている集落がいくつもあるんだろう。
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