第27話 キメラハンターです
「……一つだけいいですか?」
「もちろんだ。言ってみろ」
ニクシーに欲しいものがあったのか。普段から従順だったこともあり、気づかなかったな。
「もし、できればなんですが……お父さんとお母さんの写真を取りに行きたいです」
本人と会いたいではなく写真という所から、ニクシーの境遇を察した。それと同時に、なぜ追放されたかまで予想がつく。可愛らしい見た目からは想像できないが、過酷な人生を歩んできたのだろう。
可哀想だとは感じないが、何かしてやりたいと思うぐらいの情は移っている。
このぐらいなら、聞いてやっても良いだろう。
「残っているのか?」
「家はなくなってしまいましたが、写真だけは庭に隠していました。まだあると思います」
「そうすると、商業の神が区投資している都市に行かなければならないな」
顎に手を当てて少し検討してみる。
上級機械ゴーレムが都市を管理しているのであれば、侵入者の対策はしっかりとしているだろう。外壁を乗り越えようとしたら、警報装置が鳴る、監視用のカメラに記録される、ぐらいはあるだろうな。
人類の文明を抑制している都合上、都市の中に高度な機械はないだろうから、侵入が一番苦労しそうだ。
俺たちが生き続ける限り、上級機械ゴーレムに気づかれる可能性は残っている。先に仕掛けて情報を手に入れるのもありだな。
使えそうな侵入プランさえ思いつけば、ニクシーの願いは叶えられそうである。
「あの、やっぱりダメですよね。ごめんなさい!」
「まだ諦めるな。検討するから質問に答えろ」
期待を込めた目でニクシーが見てきた。
あまりにもリスクが高いと判断したら、断るつもりだったんだが。ちょっと言い出しにく空気になったな。これだから他人とのコミュニケーションは難しい。苦手だ。
「都市に出入りする人間はいるか?」
「います」
もし逆の答えだったら、計画は即座に中止しなければいけなかったので助かる。
「キメラハンターです。彼らは毎日、外に出て食用の肉や薬に使う薬草を、取ってくるお仕事をしています」
「武器は何を使っている?」
「一番多いのは槍でその次に剣や弓です。あとは……力のない子供ならナイフですね」
文明を抑制しているからか、武器は進歩していないどころか、退化してるようだ。俺が地上にいた時代には魔力を飛ばす武器などあったが、そういったものは禁止とされたのだろう。知識すら残っていないだろうな。
「魔法は使うのか?」
「そんなこと、人にはできません。使えるのは神兵……じゃなくて機械ゴーレムだけです」
なに、当たり前のことを言っているんですか? なんて態度だ。
道具だけでなく魔法の知識まで失われているとは。原始的な魔法なら偶発的に覚えることもあるはずなのだが、ニクシーの反応からして、そのような出来事もないのだろう。
理由はすぐに思い浮かんだ。首輪の存在だ。
あれが、魔法を発動させないようにしている可能性は高い。
「キメラハンター以外に出入りする職業を教えてくれ」
「私が知っているのは商人です」
「他の都市との交易か」
都市内だけで完結してしまうと経済が停滞してしまう。成長していない、未来を感じられない、そんな状況を受けいられるほど人間は強くないので、上級機械ゴーレムたちは交易を許可したのだろう。
「はい。神様に認められた許可書を持っている人だけが、他の都市と行き来できるんです」
管理が大好きな上級機械ゴーレムなら当然の対応だな。違和感はない。
「護衛はラインセンス必要なのか?」
「わかりません……」
キメラが徘徊するような場所を歩くんだから、キメラハンターが護衛していると思ったのだが、ニクシーの知識だけで裏付けは取れなかった。大人のシェリーなら何か知っているかもしれない。
「シェリーさん、マスターがお呼びです」
俺が命令をするまでもなく、ナータが天井に備え付けられた通信機能を使った。
しばらく待つと、ドタドタと走る音が聞こえてシェリーが入ってくる。
メイド服のスカートをパンパンと叩いてから、髪を整え、俺の前に立つ。
そういうのは俺が見てない場所でやるべきなんじゃないか。どこかズレた女である。
「ご用ですか?」
「交易している商人の護衛について聞きたい」
「アイツらのことですか」
鼻にシワを寄せて嫌悪感をあらわにした。珍しい反応だ。
「知っていることを話してくれ」
はぁと、小さくため息を吐いたシェリーが話し出す。
「アイツらを一言で言うと人格破綻したキメラハンターの集まり、だね」
「大切な商品を守る仕事だぞ? 普通、まともなヤツらを雇うんじゃないのか?」
キメラが襲ってくるかもしれない危険な外を、人格が破綻した人間と一緒に行動したいと思わない。なぜ、あえて信用できないヤツらを雇うんだ。
「都市から都市に移動するなんて危険な仕事、誰もやりたがらないからねぇ。孤児として育てられた子供の中でも、ネジがぶっ飛んだ人が就く仕事になっているんだよ」
神に管理されるのが当たり前で、親の仕事を受け継ぐシステムがあるんだ。普通はキメラハンターとして長く生きていけるよう、比較的まともな仕事を選ぶよな。
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