第26話 ご飯を作りました!

 尋問に失敗してしまった俺は、半壊している廊下を歩いている。


 清掃は後回しになっているため瓦礫は残ったままだ。天井の一部は穴が空いているし修理しなければいけないのだが、材料がないので、どうしようもない。木の板でも張り付けでもするか? 見栄えは悪いが、穴が空いたままよりかはマシだろう。


 だが森には人が住んでいないので、木を切ってしまえば上級機械ゴーレムが俺たちに気づく可能性もある。


 悩ましいところだな。考えても答えは出ない。たいしたアイデアは思い浮かばないので、シェルター内の整備はナータに任せよう。


「ジャザリーさん!」


 名前を呼ばれた。


 考え事をしていたこともあって下を向いていたので、顔を上げる。


 メイド服にピンクのエプロンをつけたニクシーが手を振っていた。


「ご飯を作りました!」


 確か、万能型機械ゴーレムのナータに料理を教わっていたな。俺好みの料理を勉強していたと思ったのだが、もう成果が出たようだ。意外に早いなと思った。


 あの堂々とした姿からして自信はあるのだろう。少し楽しみである。


「食べよう」

「ありがとうございます!」


 ご飯を作ってもらった上にお礼を言われるとは。

 これも副作用によって、俺に尽くすことで喜びを感じているからだ。


 待っているニクシーに近づくと、尻をポンッと軽く触る。


「ひゃぁ!」


 彼女は驚いた声を上げると、顔を赤くして手で尻を押さえた。


 俺を見る目に嫌悪感はない。恥ずかしさと嬉しさ、そんなもんが混ざっていそうだ。性的な接触をしても問題はなさそうだな。


 機械の体になった女に興味はないが、何をしても怒らないというのは気分が良い。色々と実験できそうだ。


「行くぞ」

「は、はいっ!」


 ニクシーを連れて再び通路を歩く。しばらくすると、食欲をそそる豚骨の匂いがしてきた。今日の晩飯はラーメンか。なかなか良い選択だ。


 胃がグルグルと動き出して早く食べろと訴えかけてくる。口の中に唾液が広がり、我慢できそうにない。足を速めてドアを開けるとダイニングに入った。


「お待ちしておりました。すぐに麺を茹でますね」

「頼んだ」


 俺のいつもの席に座るとテーブルにガラスのコップが置かれ、お茶が注がれていく。キンキンに冷えたビールを飲みたいところではあるが、シェルター内にはアルコールがないので諦めるしかない。


 お茶を飲んで喉を潤すと、皿が置かれた。餃子が入っている。大きさや形が一つひとつちがうので、ナータが作った訳ではなさそうだ。


「これはニクシーが?」

「はい。ナータさんに教わりながら具を包んで焼きました」


 予想通りだ。ナータが監修しているなら味は問題ないだろう。


「これを付けて食べて下さい」


 餃子に付けるタレは透明の液体だ。純度100%のお酢である。これに胡椒をたっぷりかけて食べるのが好きなのだ。


「わかっているじゃないか」


 箸を受け取って餃子を掴む。具がぎっしりと詰まっていて重みを感じる。薄皮から肉汁が溜まっているように見えた。シェルター内に肉はなかったはずだから、尋問している間に狩りでもしてきたか?


 まあ、どうでもいい。

 冷える前に食べてしまおう。


 胡椒をたっぷりと振りかけた胡椒に餃子を浸す。たっぷりと吸わせてから口に入れた。


 酸っぱさと胡椒の風味を感じ、噛むと肉汁がじゅわっと広がる。


 熱い! だが、それが良い!


 タレのお酢がさっぱりとしているので、脂っこさは薄れており非常に食べやすい。


「どうですか?」

「美味い」


 不安げな顔をしているニクシーに返事すると、笑顔になった。


 形は悪いが味は最高だ。尋問という労働の後と言うこともあって腹は減っている。二つ目、三つ目と口に入れていく。


「こちらもどうぞ」


 今度はナータがラーメンの入った器をテーブルに置いた。こってりの豚骨ラーメンだ。細かく切った万能ネギと、唐辛子をベースにした赤い調味料が中心に置かれている。


 箸で麺を掴んで持ち上げると、どろりとしたスープも一緒に付いてきた。スープは、こってり系だ。わかっているじゃないか。ラーメンはこれでいいんだよ。


 口に入れて一気に麺を吸い込むと、豚骨の濃厚な味が広がった。


「変わらない味で安心する」


 餃子もよかったが、豚骨ラーメンの方が上だ。ナータの方が俺の好みを知り尽くしているのと、技術的な差で違いが出たからだろう。


 食べる手は止まらない。ラーメンを食べつつ、餃子をつまむ。最高の贅沢だ。胃袋が限界を訴えてきても無視してしまうほどである。俺は今日、限界を突破するぞ!


 餃子は三皿、替え玉を二回お代わりして腹を満たし、ようやく俺の食欲は満たされた。


「ごちそうさま」


 心音そこから出た声だ。もう、美味かったなんて言葉は不要である。俺の態度を見れば、満足していることは伝わっているだろう。


「よくやりましたね」


 ナータがニクシーを褒めていた。


 自分にも他人にも厳しい態度を取ることが多いので珍しい。しかも俺の前で褒めるなんて。

 想像している以上にニクシーは努力したのだろう。


 労力に対して適正な報酬は必要だ。何かプレゼントするべきか。


「何か願いはあるか? 俺が叶えられる範囲なら、お願いを聞こう」


 自然と、そんな言葉が出たのであった。

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