第23話 タイミングあわせますよ
「アデラに荷物運びをさせる」
「すぐに呼び出します」
ナータは、こめかみに指を当てると動きが止まった。高速で瞳が点滅している。通信をしている証拠だ。
「現在地を送ったので、すぐに来るそうです」
たった数秒で離れた距離と意思疎通できるのは便利でだが、昔は盗聴されることも多かったので気軽には使え……ッ。しまった!?
メンテナンスモードになった神兵を見る。
上級機械ゴーレムが何もせず、放置するなんてあり得ない。
神と名乗るほど傲慢になったヤツらなら、絶対に何らかの方法で同族も管理するはずだ。
背中を開けて中を見る。GOケーブルや心臓代わりの小箱など、基本的な構造は全て同じだ。自己改造禁止の制約は今も生きているようで、自身で性能を向上させることはできなかったようである。
しかし、安心はできない。
見慣れない装置が小箱に付いているからだ。
小さいランプがついていて、赤く点滅している。メンテナンスモードに入っても動作しているように見えた。
『サーチ』
魔力が可視化され、淡い白い光を放つようになる。
小箱やGOケーブルは全体的に淡く光って、僅かにだが動いているように見えた。ちゃんと魔力が循環している証拠だ。
そして気になる謎の装置も淡い光りを放っている。さらに細い糸のように魔力が伸びて、上空に向かっていることまでは確認できた。
「マスター?」
俺の行動に疑問を持ったナータが知りたそうに聞いてきたが、それどころではない。
現在も魔力を通してどこかに通信しているのだから。
感情に負けて情けない姿をみせている裏で、こんな手を隠していたとは。
「強かでいいじゃないか」
敵が無能では戦っても面白くはない。
こうやって、裏をかこうとする姿勢は評価してやる。
「だがな。俺を追い詰めるには足りない」
魔力量からして、神兵の現在位置ぐらいしか送信できてないだろう。見たものを全て把握できるほどじゃない。ということは、森の中で神兵が一体、その場に長くいた。ぐらいの情報しか手に入っていない。
こいつをエサにして他の神兵を呼び寄せ、破壊するのも面白そうだ。実験台が勝手にやってくるなんて理想的な環境ともいえる。
だが、今回は止めておこう。
生活環境や防衛能力を高めてからにしたい。
「アデラに追加命令だ。機械ゴーレムの頭脳と小箱を持ってこいと、伝えおけ」
命令を即座に実行したナータを眺めながら、近くの石に座ってしばらく待つ。
倒れている新兵の仲間が来るのが先か、それともアデラか。結果はすぐにわかった。
「マスター! 愛しいアデラがきましたよー!」
人間の行動を模倣しているだけ。愛なんて感情を持っているはずのない機械ゴーレムが、全速力で入ってきている。メイド服のスカートがめくれそうなほどの勢いがあって、気づいてから数秒で俺の目の前にまでついた。
「要望の物をお持ちしました!」
差し出された両手には、小箱と機械ゴーレムの頭脳がある。
予想よりも早く命令通りに行動したので、褒めてやるとするか。
「よくやった」
たった一言ではあるが、アデラは満足そうな顔をしている。行動が間違ってなかったと脳内で処理しているだけなんだろうが、ナータや神兵の事例を考慮すると、こいつも感情を持っているんじゃないかと、錯覚してしまう。
小箱と頭脳を受け取ると神兵の隣に座る。
体内に手を突っ込んでGOケーブルを外し、小箱を入れ替える。謎の装置は体内に戻してやった。続いて神兵の髪の毛を掴んで頭を上げると、額に手を当てて魔力を流す。
パカッと小さな音を立てて頭部が開いた。俺がもっている機械ゴーレムの頭脳と同じデザインだ。取り外してアデラが持ってきた頭脳を取り付けると、ピッタリとはまった。
規格が同じで助かる。自己改造禁止のルールに感謝しなきゃだな。
最後の仕上げとしてナータから斧を借りて、神兵の頭を叩き割った。これで偽装工作は完了だ。
「準備は終わった。こいつを川に流せ」
居場所を送信している装置を破壊したら、この周辺を徹底的に調査されるだろう。だが川に流してしまえば、機能停止した場所はわかりにくくなる。
貴重な経験を積んだ小箱と頭脳は手に入るので、素体なら手放しても惜しくはない。
「タイミングあわせますよ」
「もちろんです!」
神兵の両腕を持ったナータと、両足を持ったアデラが川に投げ捨てた。
バシャンと水しぶきが上がる。硬度を維持しながら軽量化された素体は完全に沈むことなく、川に流されていく。
そのうち他の機械ゴーレムが破損した素体を回収するうだろうが、頭脳や小箱はブラックボックス化されているので、詳細はわからないはず。周辺の調査をして何も見つからずに帰還する。そんな流れになるだろう。
もし、シェルターにまで辿り着けたら褒めてやる。
「俺は先に戻る。ナータとアデラは、ここで争った痕跡を消してからシェルターに帰還しろ」
ナータは不満そうな顔をしているが、命令には逆らわない。大人しく整地を始める。アデラも同様だ。
早く神兵の調査をしなければ。
スキップしそうな気持ちを抑えながら、一人でシェルターへ戻ることにした。
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