第22話 時間がかかりすぎじゃないか?

「その言葉は本当か?」

「はい。私の言葉に嘘偽りはございません」


 人類のために働くと言っているが、機械ゴーレムたちがやっていることは管理と監視だ。文明も抑制しており、人類のために動いているとは思えない。


 目の前にいる神兵とやらは、どんな思考をして嘘偽りがないと言ってのけているのか。調べ尽くしてやろう。


「お前が本当に嘘をついてないか、確認したい。いくつか質問するから正直に答えろ。素直に話せば生かしてやるが、嘘をつけば……」


 ナータが斧を振り上げると、神兵の頭をかするように振り下ろして、刃を地面にめりこました。


「ひぃ」


 小さい悲鳴を上げた神兵は、懇願するような目で俺を見る。

 脅しは充分な効果を発揮したようだ。


「では尋問を開始しよう。まずはお前の存在意義を教えろ」

「……人類のために働くことです」


 そう答えるよな。ここまでは予想していたとおりだ。恐らくこの先が、機械ゴーレム、いや神によって解釈が変わるところだろう。


 では、神兵は? 何を思って人間を管理している?」


「具体的には、お前はどんな仕事をしているんだ?」

「私は警備隊に所属し、都市を襲うキメラや敵対している神兵の監視が主な仕事です。たまに戦ったりもします」


 人間が住まう都市を守る役割を任されているのか。人類のために働く、という目的と矛盾が生まれにくい仕事だな。こいつは、何の疑問を持たずに稼働していそうだ。


「あ、あとは、都市から出た人の監視もお仕事に入っています」

「監視だと? 保護はしないのか?」

「自らの足で生きる力がなくなってしまうので、特別な事情がない限り手は出しません」


 普段の生活を管理、監視しているくせに、生きる力と言い切るか。矛盾しているようにも感じるが、神兵のなかでは一本の筋が通っていると思っているのだろう。


 俺には理解できないが、こういった建前があるから上級機械ゴーレムの手足として動いているのだろう。地上で稼働しているすべての機械ゴーレムたちは、似たような状況にあると見ていい。


「この森には調査にきたのか?」


 監視が仕事であれば、森に来る理由が思い浮かばない。ピクニックをしに来たわけじゃないんだろうし、相応の理由があるはず。


 嫌な予感を覚えつつ、神兵を睨みつける。

 さっさと話せ。俺は答え合わせがしたい。


「信号の途絶え方がおかしいとの連絡をうけて、探しにきました」

「どういうことだ? 詳しく説明しろ」

「人の体内には、定期的に居場所を教える極小の魔道具が仕込まれています」


 ナータが神兵を踏みつけた。眉をつり上げており、怒りをあらわにしている。

 人間くさい仕草に小さく拍手をしてしまった。


「嘘ですね。体内を検査しました、そんなものは見つかりませんでした」


 これについては同意だ。ナータの目を使った簡易的なスキャンだけでなく、治療所にある施設も使って、入念に調べたはずだからな。極小とはいえ、魔道具を見落とすなんて得ない。


 だが目の前で顔を踏まれ、地面とキスしそうになっている神兵が、すべて嘘をついているとは考えにくい。食い違いが起こるということは、俺の知らない情報があるのだろう。


「そりゃ、敵対している神に気づかれないよう、感知しにくく作ってますから」

「隠蔽の魔法をかけていたのか」


 未来の技術を使って、極小の魔道具を体内に埋め込んでいた。

 感知されないように高度な魔法を使って。


 しかもこいつらが崇めている、商業の神の独自技術らしい。

 これは見抜けるはずがない。


 文明を抑えて技術は停滞していたと思ったが、機械ゴーレムたちは密かに進歩させていたのだろう。


 侮っていたわけではないが、心のどこかで油断していた俺の失敗だな。だが早期に判明したので、致命的ではない。余裕で挽回できる。


「正解……です」


 へへへと、新兵はこびるような笑みを浮かべた。

 これで助かる、なんて思っているだろう。


「ナータ、動けないように取り押さえろ」


 猫のようにしなやかに動き、神兵の四肢を抑えた。


「え、帰してくれるんじゃ?」


 戸惑っているだけで、抵抗すらしない。なんとも間抜けな機械ゴーレムである。量産型だとしても、も少しまともな反応をするぞ。


「誰がそんなこと言った?」

「だって、生かすってことは……」

「破壊されないってことだけだ。お前は実験台として使わせてもらう」


 ようやく危険だと気づいたようで神兵は暴れ出すが、ナータの拘束からは抜けられない。


 恐怖心を煽るようにゆっくりと近づき、俺は神兵の服を破った。素肌があらわになった背中に手のひらを当てる。


 魔力を注ぎ込むと、神兵の動きが鈍くなった。抵抗を感じるが、この程度であれば問題にはならない。魔力を強引に流し込んで突破する。


 しばらくすると完全に停止して、神兵目から光が失われた。うなじに小さな赤いスイッチが出現する。押すと今度は背中の中心がパカッと開き、内部が見えた。


「メンテナンスモードになったな」


 これで持ち運びが楽になる。シェルターに持ち帰って実験に付き合ってもらおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る