第14話 終わりでいいぞ
「マスター、マスター、マスター」
なぜか俺は寝室に置いたベッドの上で、メイド服を着た新しい機械ゴーレム――アデラに抱きつかれている。
胸は控えめなので柔らかい感触は楽しめていない。むしろ痛いぐらいだ。長い銀髪が顔にかかって、正直うっとうしい。
「離れろ」
「いやです。ここが私の席です」
なんだこの甘えんぼは? 戦いにしか興味のない性格になると思っていたので、この動きは想定していなかった。つり目で強気そうな顔をしているから、ギャップが大きいな。
機械ゴーレムはブラックボックスとなっている技術も多く、天才である俺でも解析できてないことの方が多い。人類のために働くという共通設定や、性格なんかはそのうちの一つだ。
「仕事はどうした?」
「私は戦うのが仕事なので、今は待機中です~」
「はぁ……」
自由気ままに動くタイプは苦手だ。嫌いではないから側にいても良いのだが、何をするか予想できないので、少し怖さを感じる。
「マスター、よろしいで……」
用事があったのかナータが部屋に入って、動きが止まった。予想外の出来事で動きが止まるなんて珍しい。
眼球が動いて、視線が俺からアデラに移った。
「一体何をしているので?」
「マスターの護衛~」
抱きつくことで守っているつもりだったのか。護衛という仕事を、ちゃんと説明してやる必要がありそうだな。
「敵はいつ来るかわからないんだぞ。今すぐ襲撃されたとして、動けるのか?」
「もちろんです!」
アデラすばやく動いてナータの前に立ち、回し蹴りを放った。
「その程度ですか?」
万能型として貴重な鉱石を使い強化したナータは、片腕でアデラの足を掴む。スカートがめくれて、可愛らしいピンクのパンツが見えた。
「この~~!」
足を動かそうとしてもびくともしない。素のパワーが負けているのだ。この状態から逆転するには、体内に溜めた魔力を解放するしかないのだが、そこまでいくとじゃれ合いでは済まない。殺し合いになるだろう。
「力の差がわかったのであれば、私に従いなさい」
「やだ! 私はマスターの命令しかきかないっ!」
愚かなことにアデラが魔力を解放したようだ。全身からオーラが出る。ナータも対抗するようにして魔力を解放して、全身からオーラを出した。
緊張感が高まってくる。
「二人とも止めろ」
すぐに魔力は霧散して、アデラとナータのオーラが消える。
機械ゴーレムは道具でしかないので、マスターの命令があればすぐに従うのだ。
ナータは掴んでいた足を離すと頭を下げた。
「新人の教育ができておらず、申し訳ございません」
「マスター、怒っちゃった?」
軽い口調ではあるが、アデラは震えているように見える。
機械ゴーレムに感情はなく、人間を模倣する動作しかできないはずなのだが。ここまで表情が豊かなのは初めてだな。
「アナタも頭を下げなさい」
ナータがアデラの頭を抑え、無理やり下げさせた。
先輩としての自覚が芽生えているのは良いことだが、少し窮屈にも感じる。俺は礼儀にうるさい方ではないので、主人として敬う心さえ持っていれば、おかしな言動をしても許すつもりだ。
「俺の命令を必ず聞くのでれば、礼儀はほどほどでいい」
「……よろしいので?」
確認するため、ナータが聞いてきた。
「俺たちが知っている世界は滅んだことだし、誰も機械ゴーレムに対しての礼儀なんて求めん。もう少し砕けた態度をしても、文句を言うヤツはいないだろう」
眠る前の社会だと機械ゴーレムは道具であって、人間より偉くなってはいけない。だから上下関係をハッキリさせろ、なんてマナーにうるさいヤツらは多かったのだ。
道具であるという部分は同意だが、だからといってマナーも大事なんて思わない。俺に従順であれば好きに行動させて良いと思っている。
「かしこまりました」
微笑んだナータは、アデラから手を離して頭を上げた。
「もう謝罪は終わりで良いの?」
俺とナータを交互に見ながらアデラが質問した。
外で拾ったニクシーより子供っぽいな。元奴隷の脳を使っているから、戦闘技術以外は教育されなかたのかもしれない。
「終わりでいいぞ」
「やった~!」
その場から跳躍して俺に飛びついたアデラは、強く抱きしめてきて離れようとしない。ナータは小さくため息を吐いただけで何も言わなかった。
礼儀は最低限で良いと言ったので、指摘する必要性を感じなかったのだろう。
「用事があってきたんだろ? なにがあった」
「半機械ゴーレム化した二人が仕事をしたいと言っていたので、畑作業をさせております」
助けたニクシーとシェリーは、神の正体を伝えたと報告を受けてから放置していた。気持ちを整理する時間が必要だろうと思っての対応だったのだが、どうやら効果はあったようだ。
都市を追放されたので凶悪犯だった可能性も考えていたのだが、シェルター内の監視カメラの映像やナータの報告からして、そういった危険性はないと判断している。
仕事をしているのであればシェルターで生きていくという覚悟を決めたんだろうし、仲間として受け入れても良いだろう。
「見学されますか?」
「そうだな。少し話したいこともあるし、今から行こう」
空気を読んでアデラが俺から離れたので、立ち上がるとベッドから降りて寝室から出て行く。向かう先は室内畑だ。
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