第13話 二人とも動揺されていますね

「液体に浮かんでいるのは、機械ゴーレム――神の頭脳です。あれの元がなんだかわかりますか?」

「鉄で作られているし、金属じゃないの?」


 シェリーさんの意見に同意です。私もそう思うので首を縦に振りました。


「二人とも、それは間違いです。大元は人間の脳ですよ」

「「…………」」


 え、何を言っているんですか? ナータさん、それは冗談ですよね?


 だって、神様ですよ。人よりも上位の存在で、決して間違うことがなく、逆らってはいけない。そうやって教わってきたんです。


 なのに、それが、人の脳を使ってるだなんて……。


「その話は本当なんですか?」

「良いでしょう。証拠を見せます」


 私の無礼な質問に怒ることなく、ナータさんはエプロンのポケットから、何かを取り出しました。


 ボタンを押すと壁に映像が出ます。


「これは貴方たちが言う、神の製造過程を記録した動画です」


 部品が組み合わさり完成した姿は、一度見た神兵様とほとんど一緒でした。顔が似ているんです。


 神様はご自身に似せて神兵様を作ったと聞いていたんですが、椅子や机、家と同じ存在。本当は人が作った物だったんですね……。


 ヒドイ! ずっと私たちを騙していたんだ!


「禁忌を犯しているのは、神の方だったのかっ!」


 地面を踏みつけ、今まで見たことのない表情でシェリーさんが怒っていました。先ほど怯えていた姿が幻だったと思うほど、豹変しています。


「私たちは騙されていたんだ! 許せないっ!!」

「そうですね。許せません」


 ナータさんが同調しながら、優しい声色で話を続けます。


「だから、シェリーさんを弄んだ神、いえ、上級機械ゴーレムと決別しましょう。ここでずっと暮らしませんか」

「上級機械ゴーレム? それが神の正体?」

「そうです。あそこにぶら下がっている素体と、人間の脳をベースにした機械の頭脳を持つ存在。それが神と偽って世界を支配しているものの正体です。そして、それらを生み出したのは、マスターと同じ人間です」


 神が人を作ったのではないのですね。

 人が神を作ったのですね。


 私の常識がガラガラと音を立てて崩れていきます。

 足から力が抜けてしまい、地面にペタリと座ってしまいました。動けません。言葉も出ません。


「二人とも動揺されていますね」

「そりゃぁ、ずっと信じていた神が嘘をついていたとわかったんだ。私はこれから、何を信じて生きていけば良いんだよ」


 吐き捨てるようにシェリーさんが言うと、座り込んでしまいました。


 瞬発的な怒りを発した後、無力感が襲ってきたのかもしれません。似たような境遇なので、なんとなくわかるんです。


「だったら、一緒にマスターを信じましょう。従う限り絶対に裏切りませんよ」

「ジャザリーさんを? 確かにいい人だけど、ちょっと抜けてるところありそうだからなぁ」

「何を言っているですか。だから支えがいがあるんですよ」

「……ぷっ」


 急に笑ったシェリーさんは、手を前に出しました。


「長い付き合いがありそうな、あなたが言うならそうなのかもね」


 ナータさんも同じように手を出し、握手をします。


「いいよ。命の恩人を信じる。一緒にジャザリーさんを支えようじゃないか」

「これからは同僚ですね。よろしくお願いします」


 すぐに切り替えられるなんて、大人ってすごい。

 私はまだ立ち直れていないのに。


「ニクシーはどうする?」

「私は……」


 今すぐ答えなんて出せない。だって神様がいない世界で生きていかなければいけないんですよ?


 でも、ジャザリーさんに見捨てられたら生きていけない。嘘でも神を捨ててついていくと言わなきゃ……。


「悩んでいるなら、ゆっくり考えましょう」


 決断できない私に失望するわけではなく、ナータさんは優しく頭を撫でてくれました。存在を認めてくれたような気がします。


 もしかして神様なんていなくても、認めてくれる人がいるだけで充分なのかもしれない。心が満たされて、幸せを感じていくのがわかりました。


「まだ答えは出ませんが、でもナータさんやジャザリーさんの役に立ちたいと思っています」


 神様と決別するとは言えないですけど、シェリーさんと同じで恩人への感謝は忘れません。


「ここで働かせてもらえませんか?」


 都市では、まともな仕事はできず捨てられてしまった私ですが、雑用でも良いので役に立ちたいです。


 辛かった記憶が蘇って少し手が震えそうになりましたが、ナータさんの顔を見たら落ち着きました。


 神兵……じゃなくて、機械ゴーレムなのに、ナータさんはどうして優しくしてくれるのだろう。もし裏があって騙されたとしても別に良いかな、なんて思っている自分もいます。


 私はなんてことを考えているんですかね。混乱してて感情が整理できないんです。


「もちろんですよ。一緒に楽しく自由に暮らしましょうね」

「自由、ですか?」

「そうです。就寝や起床の時間、ご飯を食べる時間……行動の一つひとつを、ニクシーさんが決めるんです。できますか?」

「私が、決める……」

「そうです。二人とも、自分で考えて決めて、行動するんですよ」


 決められた通りに動くだけじゃダメなんだ。それが自由なんだ。


 まだ私には、それがどんなに大変なのかわからないけど、少しだけ胸が躍るような気持ちになりました。


 自由というのは、忘れられない言葉になりそうだなって、感じています。

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