第7話 他の施設を見るか

「だったらお前は、このまま死にたいのか?」

「………………生きたい、です」

「そう思うなら禁忌なんて気にするな。生きるため、という大義名分の前では、全てが肯定される」


 人間は生身でいろ?

 生き残る手段があるのに使えない?

 馬鹿らしい。

 そんなくだらないルール、しかも道具が勝手に作ったものを、人間が守る必要なんてないのだ。


 家畜に成り下がった人間どもにはわからないだろうが、機械ゴーレムは人間のために存在する。それ以上でもそれ以下でもない。


 ナータを見ながら命令を出す。


「二人同時に半機械ゴーレム化対応をしろ」

「かしこまりました。すぐに取りかかります」


 倒れたままのニクシーを拾い上げると、ナータはリビングから出ようとする。


「作業が終わったら、毒が打たれた原因も調査しておけ」


 見知らぬ他人のためではない。俺が毒に苦しんで死ぬのを回避するため、原因を調べておきたいのだ。


 寝ている間に生まれた新種の昆虫や動物、キメラに刺されたのであれば、対策を練る必要があるからな。


「もちろんでございます。意識を取り戻したら本人にも聞くつもりです」

「頼んだぞ」


 今度こそナータはリビングを出て行った。

 一人残された俺はしばらく映像を見ていたが、キメラが出ることはなく、変化がなかった。これ以上は時間の無駄だと感じたので映像を切ると、ソファから立ち上がる。


 シェルター内の破損状態を確認するべく、通路や各種部屋を確認していく。


 倉庫や遊技場といった各部屋は無事なのだが、ポッドを置いていた部屋までの通路は荒れていた。床のタイルは砕け、壁は凹んでいる。天井の一部は穴が空くほどの戦闘があったようである。


 さらには、機械ゴーレムの部品が至る所に散らばっているので、ナータがこいつらと戦いシェルターを守ってきたことは、容易に想像が付いた。


 破壊された機械ゴーレムの腕を手に取る。素材は鉄と魔力伝導率の高いミスリル銀を混ぜた合金で、量産型の戦闘機械ゴーレムに使うものだ。特質するべき点はない。だが、内部は俺が作っていた機械ゴーレムとは構造が大きく違った。


「肌の質感は固い。旧型の機械ゴーレムに近いな。内部構造も単純化されていて、GOケーブルの本数も少ない。これじゃナータの半分ぐらいの力しか出せないだろう」


 質は落ちたが、その分、生産コストは下がっている。俺のシェルターを襲ってきたのは、量産型だったのだろう。数はおよそ二百ってところか? それをナータだけで対応したのだから、魔力切れになるのも当然だ。


 残る謎はシェルターが狙われた原因だな。物取りの線は薄いだろう。世界で多少は名の知れた人間ではあったが、命を狙われるほどではなかった。


 理由が全く思い浮かばないので、こればっかりはナータに聞くしかないだろうな。


 半壊している通路を歩き、出入り口まで付いた。壁にはしごがあって数メートル上には蓋がある。あれはシェルターの出入り口だ。


 傷跡はあるが破壊はされてないので、緊急性の高い問題は発生していないようである。外の様子も確認したいところではあるが、先ずは内部を優先しよう。


「他の施設を見るか」


 次に確認しに行ったのは室内畑である。

 天井に人工太陽を浮かべ、定期的に雨を降らし、肥料をまく場所だ。


 ドアを開けて部屋に入ると、むわっとした空気を感じた。少し温度は高めに設定されているようだ。目の前には黄金のような色をした小麦が、視界一面に広がっている。壁際に作られた道を歩き奥に行くと、キャベツやトマト、ナスといった色とりどりの野菜が並んでおり、実を付けていた。


 誰も手入れはしていなかったのに、順調に育っている。

 さすが高い金を払っただけあるな。当面の生活大丈夫そうだな……って、これはなんだ?


 地面から鉱石が生えていたのだ。

 あり得ない出来事に驚きつつ、触ってみる。


「ミスリルだ」


 魔力伝導率の高さから、機械ゴーレムの素材として使われる鉱石だ。産出量が少ないので貴重なものなんだが、なぜシェルター内から取れるようになったんだ?


 寝ている間に地殻変動が起こったのだろうか。原因はわからないが、これは使える。外が機械ゴーレムの支配する世界であるなら、自由を守るために戦力を強化する必要があるからな。


「よし、先に機械ゴーレムを作ろう」


 それも戦闘型だ。ナータを頂点にして、メイドシリーズにするのも楽しそうだ。機械ゴーレムのパーツは眠る前に用意しているので、すぐに作れる。早速に二体目を用意しよう。


 手に入れたミスリルの鉱石を持って倉庫に行くと、適当な場所に投げ捨てた。


「さて、選ぶか」


 倉庫には、機械ゴーレムの素材が集まっている。


 腕や足、顔、体の人工骨を組み合わせ、筋肉の代わりにGOケーブルを巻き付け、人工皮膚を貼り付けた素体が、数十体分はぶら下がっている。


 すぐにでも動かせる素体が選びたい放題である。

 適当に見繕ってから作業部屋に持って行くと、もう一度倉庫に戻る。


 次は棚に飾ってある心臓の代わりとなる小箱を一つ選び、保存液に入れて並べられている機械ゴーレムの脳を、ケースごと持った。


 液体に浮かぶ脳は金属ではあるのだが、実はこれ、人間の新鮮な死体から取り出した脳をベースに作られているのだ。


 人類の魔導技術が進んでも脳だけは、ゼロから作り出すことはできず、改造することで適合させた。


 機械ゴーレムの脳はベースが人間であるので、神と名乗っていて人間を見下し管理しているヤツらこそ、禁忌を犯した存在なのだ。


 この事実を知ったとき、上位機械ゴーレムを神だと崇めている人間達は、何を思うんだろうな。

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