第6話 念のため二人を調べろ

 ナータの戦いっぷりを見ていたのだが、キメラの脅威はたいしたことない。原始的な生物と大祭内から、百単位で攻めてきても余裕で撃退可能だ。


 数匹までなら俺一人でも対処できるだろう。ったく、ナータは慎重すぎる所が良くないな。


『マスター、近くにもう一人いるそうです。どうしますか?』


 スピーカーからナータの声が聞こえた。外から通信してきたようだ。


 今欲しいのは現代に生きる人間からの情報で、助ける価値は充分にある。俺の存在が他の機械ゴーレムにバレてしまうリスクはあるが、助けた人を外に出さなければ問題はない。無視していい可能性だ。見捨てる理由はなかった。


『情報は少しでも多くほしい。助けられるなら、助けろ』

『かしこまりました』


 ぶつっと通話が切れた。映像にはナータや助けた女の姿はない。高速移動をして、カメラの範囲外に移動したのだろう。



* * *



 地上が汚染されて外に出れないことを想定して、シェルターには様々な施設を作っておいた。俺が寝ていた部屋の他に、リビング、寝室、大浴場、トイレ、室内畑、作業部屋、倉庫、治療所までそろっている。


 また照明やその他の魔道具は、超小型魔力生成機によって動作している。

 自給自足可能な設備が整っているので、適切なメンテナンスさえすれば1000年は生活が続けられるだろう。


 何が言いたいかというと、シェルターの住民が数人増えた程度では、問題にならないということだ。


「帰還いたしました」


 リビングのソファで待っていたら、ナータが戻ってきた。両脇には二人の女を抱えている。一人は映像に映っていた女で、思っていたよりも幼い。少女と表現しても良さそうだ。力が抜けて腕や足はだらりとしているものの、意識はある。怯えた目で俺を見ていた。


 もう一方の女は意識を失っているらしく、顔を下げたまま動いてはいない。


「ごくろう」


 ナータはぽいと、少女を投げ捨てた。

 立ち上がれないようで倒れたまま俺の顔を見ている。


「名前は?」

「……ニクシーです」


 妖精の名前を使っても違和感がないほど、美しい顔をしている。名付けた親は良いセンスをしていたな。


「俺はジャザリーだ。そこにいる、万能機械ゴーレムのマスターである」

「万能機械ゴーレム? 神兵様ではないので?」


 ニクシーは何を言っているんだ?

 意味が分からないのでナータを見た。


「上位機械ゴーレムを神、その他の機械ゴーレムを神兵と呼んでいるようです」

「機械ゴーレムが、神だと? はははっ! 寝ている間に、ナータは冗談が言えるようになったんだなっ!!」


 久々に腹を抱えて本気で笑ってしまった。

 だって、人間のために作られた道具が、神を名乗っているんだぞ?


 生物を監視、管理して肉体をいじくり回すまでは納得できるが、人間のように神だと名乗るのはさすがにあり得ない。


「じゃあ、神が複数いて、お互いの主義主張や愛憎によって争いあっているとでもいいたのか?」


 人間を効率よく管理しようと思ったら、上級機械ゴーレムが敵対して争うなんてことはしない。俺の発言は否定されるものだと思っていたのだが――。


「その通りです。私が機能停止する前まで上級機械ゴーレム同士が争いあっていました」


 なんと肯定されてしまった。本当に争い合っているらしい。ああ、そういえば少し前に似たようなことを言っていたな。


 長期間稼働してしまったために、壊れてしまったのか?


 まるで人間のように振る舞うじゃないか。


「……それは、笑えない冗談だぞ」

「事実でございます。私が地上に出れなくなったのも、神兵と呼ばれる戦闘機械ゴーレムが地上で激しい戦いを繰り広げていたからです」


 ナータは嘘を言っていない。

 本当に、人間を管理するという目的で一致した上級機械ゴーレムが、仲間割れしたようである。

 理由はなんだ?

 思い浮かばん。


「あのっ!!」


 会話にニクシーが割り込んできた。

 怯えながらも覚悟を決めた顔をしている。


「ジャザリー様は神様ではないのですか?」

「違うな。お前と同じ人間だ」

「そ、そんなぁ……もう、誰もお姉さんを助けられないの!?」


 お姉さんとは、ナータが抱えている女のことだろう。ニクシーの反応から死にかけているのかもしれん。


 おしゃべりする前に状態を確認するべきか。


「念のため二人を調べろ」

「かしこまりました」


 命令を受けたナータは気を失っている女を床に置くと、二人の体を触りだした。手には体内をスキャンする機能があるので、触診しているのだ。目でも体内の状態は確認できるので、病気や怪我があれば見落としはないはず。


 無言でナータはナイフを取り出し、二人の指先を軽く刺した。


「いたっ」


 ニクシーは痛がっているが、命令を遂行しているナータは気にすることはない。血を採取するとペロリと舐めた。数秒ほどで、血液検査は終わるはずだ。


「解析結果が出ました」

「結論だけ話せ」

「二人とも首から毒を打たれたようで、体が腐りかけています。あと10分もすればニクシーも動けなくなるでしょう。全身のほとんどを機械ゴーレム化する必要があるかと」

「素体はあまっている。半機械ゴーレム化してやれ。お前ならできるだろ?」

「もちろんでございます」


 俺が眠る前の時代には、体の一部を機械ゴーレム製に変えている人間がいた。その技術を再現するだけならナータにもできる。


 倉庫には何十人分もの機械ゴーレムの素材が転がっているので、素材が不足することはない。女の体力がもてば必ず成功するだろう。


「まってください……」

「どうした?」

「機械ゴーレムとは……神兵様のことですか……」

「そうだが。何か問題でも?」

「神兵様のパーツを体に入れることは禁忌とされています……罰せられてしまうので……止めてください」


 家畜として扱っている人間に、自分たちのパーツを使わせたくないから禁じたのだろう。


 半機械ゴーレム化してしまったら、自らの神秘性は薄れる上に、反乱が起きるきっかけになるかもしれん。その考え自体はわかるが、人類が安全に、そして永遠に繁栄できるよう管理する一方で、人間以上に自らの存在を大切にしている。


 一定の愛情は持っているが、使えなくなれば即座に捨てるのか。

 歪んだ存在になりやがったな。

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