第5話 ウホッ! ウホッ!!
お父さんとお母さんが死んで収入がなくなって、家を追い出されてしまった。仕事を探しても11歳の未成年じゃ、非合法のものばかり。手を出すか悩んだけど……結局は、道を踏み外すことはできず、逃げ出してしまった。
働かず、仕事もしない人間が生きて良いほど、神様たちは優しくない。税金を納められなくなった私は、老人やもうすぐ死んでしまう病人と一緒に、外壁の外に捨てられてしまう。商業の神様が治める都市から追放されてしまったのだ。
「どうしよう」
身につけているのは服と靴だけ。首輪も外されちゃった。他には何もないのに、どうやって生きていけば良いんだろう。
その場で立ち尽くしていると、悲鳴が聞こえた。
「うぁぁぁぁ!!!!!」
顔色の悪いおじいさんが、頭が三つある犬に食べられていた。あれは町で聞いたキメラっていう危険生物だ!
今は一匹だけど、遠くに二足歩行する狼の群れが見えるので、このままだと食べられちゃいそう。
でも、どうすればいいかわからず、体が動かない。
「逃げるよ」
赤髪の綺麗なお姉さんが手を引いてくれた。何も考えられない私は、一緒に走りだす。同じように近くにいた人たちも走り出したけど、向かう先はバラバラ。二足歩行する狼の群れは、私たちとは別の集団を追いかけに行ってしまった。
キメラに出会うことなく、なんとか森の中まで逃げられた。姿を隠せる場所も多いし、少しは生き延びれるかも。
なんて、のんきなことを考えていたのが悪かったのか、前を歩いていたお姉さんが倒れちゃった。
「大丈夫ですかっ」
慌てて地面に膝を付けて、お姉さんを抱きしめる。体が凄く熱かった。転倒したときに頭をぶつけたみたいで、血が流れている。
どうしよう。私には怪我や病気を治す知識や技術なんてないし、人を探さないと!
「近くに人がいるかもしれません。助けを求めてきます」
一緒に逃げた人たちに生き残りが、お医者様がいるかもしれない。
そんな都合の良いことなんて、起こらないって分かっているけど、今度は私がお姉さんを助ける番だから。
がんばらないと。
そんな決意をした途端、今度は四本腕のゴリラに見つかってしまう。町の外は危ないと聞いていたけど、こんなに多くのキメラがいるだなんて思わなかった。
「こっちよ!!」
声を上げてから、四本腕のゴリラの注目を集めてから走り出した。
狙っていたとおり私を追いかけている。
これでお姉さんは無事のはず。あとはなんとかして逃げ切れば……。
「っ!?」
足が木の根に引っかかって転んでしまう。顔に泥が付いて擦り傷がいくつもできたけど、まだ動ける。立ち上がって足を出すと、痛みによって止まってしまった。足を引きずりながら逃げる。
「ウホッ! ウホッ!!」
四本腕のゴリラが、胸を叩いて叫んでいた。
何で喜んでいるのか全く分からないけど、本気で追いかけてこないなら生き残れるかも。
そんな希望を持って、私は足を引きずりながら進み……すぐに力尽きて地面に座り込んだ。ずっとご飯を食べてなかったから、力が出ない。それに体の節々が痛く、熱も出てきた。動きたいのに動けない。
「お父さん、お母さん」
三人で暮らしていたときも裕福とはいえなかったけど、暖かい布団やご飯はあった。キメラに襲われることもなかった。幸せだったな。そんな過去の記憶ばかりが頭を駆け巡る。
四本腕のゴリラが仲間を集めながら近づいてくる。
優しいお姉さんも助けられそうにないし、私の人生って、何だったんだろうな。
「ウホッ!!」
腕を掴まれて、宙にぶら下げられてしまった。口を大きく開いて生きたまま食べようとする。祈る神を失ってしまった私は、恐怖に耐えられなくて目をつぶる。
ぎゅっと強く口を閉じて待っていると、暖かい液体が頭にかかった。痛みなんてないけど血が流れてしまったのかな。どうしても我慢できなくて、恐る恐る目を開いてみる。
「!!!!」
私をつかんでいた四本腕のゴリラの頭が消えて、首から血の噴水を出していた。掴まれていた指の力が抜けて、私は地面に落ちる。なんとか受け身を取ったのでケガはなかった。
他がどうなったのか気になって周りを見ると、集まっていた他の四本腕のゴリラたちも次々と頭が吹き飛んで、倒れていく。
何が起こったんだろう?
なんて疑問が浮かびながら、体が痛くて動けない私は、血なまぐさくなった森でぼーっとしながらこの場を眺めている。
数十の四本腕のゴリラが倒れ、私の目の前にメイド服を着た綺麗な女性が現れた。
いつの間に? いつからいたのかわからない。
「生きてますか?」
「は、はい。ありがとうございます」
思わずお礼を言ったら持ち上げられ、肩に担がれてしまう。
「ま、まってください!」
すぐに移動しそうな雰囲気があったので大声で叫んでしまった。
怒られるかもしれないって不安になったけど、黙ってはいられない。泣きながらも声を出す。
「他にもう一人いるんですっ。その人も助けてもらえませんか!」
メイドさんの動きがピタリと止まった。
どうするか考えているのかな。助けるって決めてくれると嬉しいんだけど……。
「マスターからの許可は得ました。もう一人はどこにいますか?」
「え、あ、あっちのほうです!」
話し方が昔一度だけ見た神兵様と同じだった。
人を超えた力を持っているし、もしかしたら私が都市から追放されたのは間違いで、助けてくれたのかもしれない。
死なないですむ。生き残れるかもしれない。そんな僅かな希望が、私にとって救いとなった。
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