第4話 それより恐ろしい存在です
「人類を家畜のように管理するべき。これが上級機械ゴーレムの総意なのか?」
「はい。私が地上に出ていた頃は、そうでした」
少しオーバーな表現を使ったのだが、ナータに肯定されてしまった。どうやら、上級機械ゴーレムたちは、自分たちが人間の道具でしかないことを忘れてしまったようである。
自由がなくなっても、安全かつ同族で争わずに生きることができれば、人類に貢献している。そう定義したのかもしれんな。そう考えれば家畜として効率よく管理した方が都合が良い。
「その後はどうなった?」
「上級機械ゴーレムの判断に反発した人間は全て殺され、人類の管理が始まりました。人々は町という監獄に入れられ、労働を強いられ、現在も自由を奪われた生活を続けている……と思われます」
断言できなかったのは、魔力切れで機能停止していたからだろう。
機械ゴーレムは戦争に使うことも想定されていたため、制限を解除すれば人間を殺す機能もあった。当時は敵国民の虐殺は頻繁に起こっていたし、世界大戦中のどさくさに紛れて制限を外したのだろう。
緊急事態だからと、焦って愚かな判断をしてしまったな。
戦争なんてなければ文明は崩壊せず、機械ゴーレムに管理される社会にならなかったのに。
「ナータは人類が飼われる姿を見て何を思った?」
「マスターの自由を確保しなければ。そう思ってシェルターを守ることに決めました」
人間を主と定めた従順で素晴らしい考えだ。天才の俺が作っただけあって、パーフェクトである。周囲に惑わされず主として守る姿勢こそが、機械ゴーレムとしてあるべき姿なのだ。
戦争が終わっても睡眠ポッドから目覚めなかった理由は、上級機械ゴーレムを警戒して、ということであれば理解できる。環境が落ち着くまでは息を潜めようとしたのだろう。
よくぞ継続する判断を下したと、褒めてやってもいいぐらいだ。
ナータが正常に機能していることもわかり、また世界の大まかな流れは把握できたので、今度は俺のシェルターで何が起こったのか聞いてみる。
「では次に、シェルターで何が起こったのか教えてくれ」
睡眠ポッドが置かれていた部屋の荒れ具合からして、襲撃があったのは間違いない。
誰が敵なのか知っておきたかった。
「かしこまりました」
ナータは返事をしてから話を続ける。
「上級機械ゴーレムが地上を支配して百年ぐらいまでは、大きな変化もなく平和でした」
ん? 今、百年といったか?
長くても数十年の眠りについたと思っていたが、実際はもっと多くの時間が過ぎ去っていたらしい。耐久年数は百年を想定して作っていたので、もしかしたら睡眠ポッドの中で永眠していた可能性すらあったようだ。
「大きな転機を迎えたのは、その後でした。上級機械ゴーレムたちは人間の管理方法について意見が割れ、対立したのです」
これは珍しい。というか、常識として考えると、あり得ないできごとだ。上級機械ゴーレムは合理的な判断しかできないので、別個体でも結論は同じになるはずなのに。
「原因は?」
「わかりません」
俺のために上級機械ゴーレムたちと距離を取っていたのだから、分からないのは仕方がないか。重要なのは仲間割れを起こしたことにある。人間の上位者として振る舞っていても、完璧ではないと証明されたのだからな。
「そこから、人間を使った代理戦争が始まり――」
話している途中でナータが止まって、画面に映し出された映像を見る。
相変わら木々だけが映っていると思っていたのだが、いつのまにか女が木によりかかって座っていた。
ケガをしているらしく、腕や頭から血が流れていた。服は灰色のワンピースのような形をしている。スカートの丈は長く、垢抜けないデザイン。靴は足回りを囲むだけの単純な構造で、皮で作られているようだ。
一目見ただけでわかった。
俺が眠る前と比べて、文明レベルが著しく下がっている。抑制したといっても限度があるだろう。
そういえば「民衆はバカなほうが管理しやすい」なんて、発言をした男がいたな。
効率性を追求した上級機械ゴーレムはたちは、そういった言葉を忠実に実行しているようだ。
人間から技術や知識、高度な道具を奪い取ってしまえば、反乱の恐れはなくなる。家畜として管理しやすい。
非常に合理的な判断だとほめてやろう。
まぁ、だからこそ、仲間割れした事実に大きな違和感を抱く。
「どうしますか?」
「助ける」
俺やナータが知らない外の情報を持っているだろうから、助ける価値はある。
すぐに現代の知識が手に入る幸運に、感謝しなければな。
「かしこまりました。すぐ、助けに行きます」
「まて」
命令を聞いたナータが部屋を出ようとしたので止めた。
よく寝て腹も満たされているのだ。そろそろ運動がしたい。
「久々に外の空気が吸いたいから俺も行くぞ」
「危険です」
「なんだ? この近くに熊でも出るのか?」
「それより恐ろしい存在がいます」
ナータが画面を指さした。
座り込んでいる女に近づく存在がいる。見た目はゴリラなのだが腕は四本もあって、それぞれの手に槍がある。目は真っ赤で、俺の記憶にある動物とは明らかに異なる存在だ。
「キメラです。上級機械ゴーレムが他の生物を組み合わせて作りました。町の外には、このようなキメラが多数いるので、マスターはシェルターの中にいてください」
魔法による生物改造は倫理的な問題で禁止されていたが、機械ゴーレムは無視して技術を発展させてしまったようだ。
「わかった。後は任せたぞ」
小さくうなずいてナータはリビングを飛び出した。俺専用の万能機械ゴーレムとして、戦闘もこなせるようにしているので、キメラごときに後れは取らないだろう。
俺は安全な場所で映像を見ながら、優雅に待つことにする。
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