第6話 エピローグ

 レイリスは、また森の中を散歩していた。

 気持ちの良い風の中に、小さな鼻歌が混ざっていた。

 木の幹に寄り掛かり、長い髪の男が座っていた。布を巻きつけたような衣をまとっているが、その表面は、真珠のようにほのかな虹色に輝いていた。

 辺りは落ち葉が散る秋だというのに、絨毯(じゅうたん)でも敷かれているように男の下には緑の草が茂っている。

 そして寄り掛かっているその木だけ、葉が青々と茂っている。

「父上。おいでになっていたのですか」

 顔をあげた男の瞳は、レイリスの左目と同じ金色だった。

 時々、レイリスの父、陽の神ヴェンレッドはこうして地上に現れる。 レイリスの母と出会ったときも、たまたま地上に降りたったときに見初めたらしい。

「お父様も、城でお暮しになればよいのに」

「城は少し狭すぎる」

 ヴェンレッドは薄く微笑んだ。

「ああ、やはりいらっしゃいましたか」

 ルサートが落ち葉を踏みながらやってきた。。

 ヴェンレッドを見つけ、深々と頭を下げる。

「サディアさんに伝言をお伝えしました」

「そうか、ご苦労だったな」

 レイリスが言った。

「そうそう、レイリスさん、今度ご両親に会いに行くと言っていました」

「ほう、たしかケンカ別れしたと言っていたが」

「『なんだか、 息子を必死に探していたってルーナさんの話を聞いていたら、そう思うようになった』と」

「ほう。これでサディアと両親の仲が良くなれば、ますますがんばったかいがあるというものだ」

 ふっとレイリスの唇が弧を描いた。その微笑みは、彼女を見慣れているルサートも溜息がつくほど美しかった。

「そうだ、レイリス。最近ちょっとした冒険をしたのだろう? 教えてくれないか」

「おや、お父様なら何があったかご存じだと思ったのですが」

「はは、もちろん見守っていたが、お前から話を聞きたいのだよ」

 レイリスは一連の騒動を父親に語った。

 話が終わるまで笑顔で聞いていたヴィテルは、ふいに真剣な目でレイリスをみつめた。

「娘よ。これからお前にはさまざまな苦難が待ち受けているのだろうな」

 その言葉に、レイリスは不敵な笑みを浮かべてみせた。

「だからなんだというのです? この私に越えられぬ苦難などあるわけないでしょう」

「そうだな」

 ゆったりとヴェンレッドは立ち上がった。

「さて、そろそろ帰るとするかな」

 その足元から、金色の光があふれだす。その光は、優しくヴェンレッドを包み、その姿を覆い隠す。そして、光が消えたとき、その姿はなかった。

「ふむ。これからの人生、どんなことが起きるのか……楽しみだな」

「何があろうと、お供しますよ」

 レイリスとルサートは、ヴェンレッドの住む天界があるという空を見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私に転生など必要ない!~生まれたときから勝確です~ 三塚章 @mituduka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ