第5話 ほめたたえよ
兵にヴィテルが連れて行かれたころには、ウィンは眠り込んでしまっていた。助けられて安心してしまったのだろう。
そのままヴィテルをレイリスの城で寝かせることにしたため、ようやくルーナが息子を抱きしめられたのは、昼になってからだった。
さらわれた子供がレイリスの手によって帰ってきたということは、半日もかからず街全体に広まった。
サディアが働いている食堂でも、女領主を称える声で満ちていた。
「しかし、大捕物だったらしいじゃねえか」
「それに、悪魔を斬ったんだって?」
フォークの手を止め、客達は熱のこもった会話を続けた。
「主が捕まって、ヴィテルの財産はどうするの?」
「遠い親戚に譲られるとさ」
「それにしても、ヴィテル様の素晴らしさよ」
「聡明で、美しく、剣も強いというのだからな! 神の血を引いているだけある!」
そんな言葉を聞きながら、サディアは忙しく動き回っていた。
戸口に近いテーブルに料理を運びにいった時だった。
入口の隅から、ひょっこり腕が飛び出して手招きをしている。
「あ、ルサートさん」
サディアは小走りで近づいていくと、 何やら目立つ行動を避けているらしいルサートに合わせ、小声で言う。
「こんなところにいないで、ぜひお食事をしていったら」
「いやいや、この状態で今いったら、大変なことになりますから」
店からは客達がまだレイリス達を称賛する言葉が聞こえてくる。
「そ、そうですか」
「レイリス様からの伝言をお預かりしております。『もうヴィテルにわずらわされることはない』と」
ルサートは夜にあったことをサディアに告げた。
そこでサディアは顔を曇らせた。
「なんだか、複雑な気持ちです。私を得ようとして、ヴィテルさんは生贄を……嫌な人達だったといえ、ナークさんとリッシュさんも……」
「そう、そのことについてもレイリス様から伝言が」
かさかさとルサートはメモを開いた。
「『生贄についてはお前にはあずかり知らぬことだ。気にするな。例の二人については、自業自得だ。あいつらは何が行われているのか知っていながら、金のために子供をさらっていた。つまり自分のために弱い者を犠牲にしていたのだ。より強い者の犠牲になるのも道理』だそうです」
「そう言ってくれると救われます」
そこでサディアは微笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます