第五話 推しとのファーストコンタクト
事務所から二駅ほど離れた場所にある学生街に連れていかれた。
「ここよ。今日からあなたが暮らす家は」
学生街の中そそり立つ二十階近くある高級オートロックマンションにスミレが入っていく。
正面玄関入り口にあるパネルに1903とボタンを押すと、部屋の主が「どうぞ」と短く声をかけ、自動ドアが開く。
「こんな、あっさり推しの住居に辿り着いていいものか……昨日までただの一ファンだったんだぞ……」
ぶつぶつ言いながら、すみれと共にエレベーターに乗る。
「良かったじゃない。これからその推しと毎日顔をあわせることができるんだから」
「いや、唐突過ぎてついていけねぇよ! 手が届かない存在だと思っていた相手がこのエレベーターの先にいるなんて……」
段々と登っていくエレベーター。
その先に彼女がいる。
俺の推しの
「ンンッ! で、で、で、ですわ~……」
「………いきなり何言ってんの?」
いきなり歌いだすようにお嬢様言葉を声にした俺にいぶかし気な目が向けられる。
「練習しとこうと思って。相手は王女様の
「必要ないわよそんなの。ふぉんとはリアルでは全然違うから」
「いやそれでもだよ……?」
「着いたわよ」
エレベーターが19階で止まる。
廊下を歩きながらドキドキする胸を抑えながら、彼女のいる部屋へと向かう。
すみれに「ここよ」と言われ立ち止まった部屋は1903号室。ついに扉隔てた向こう側まで距離が縮まってしまった。
「ちょっと待って姉ちゃん……まだ心の準備が……」
「必要ない。そんなこといちいちしてたら先が思いやられるわよ……? あんたたちこれから一緒に暮らすんだから」
「でも、」
ピンポ~ン!
俺の反論を待たずして、すみれがチャイムを押してしまう。
ちょっと待ってくれ!
まだこっちは心の準備ができていないのに!
ガチャ……。
無情にも扉は開く。
ばちゃますのVtuberは皆、リアルをモデルにデザインされたと聞いた。だから、あの凛々しい王女様然とした大人の女性が出てくるんだ……と、
「お姉ちゃん!」
すみれにいきなり抱き着いてきた女の子が一人。
彼女は1903号室から出てきたように見えたが……、
「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん! 会いたかった! やっと来てくれたぁ!」
眼鏡をかけたセミロングの、ぱっちりとした瞳に小さな顔が特徴的な可愛い女の子。
「はいはい……大丈夫? 私が来るまで何もなかった?」
「うん! ふぉんと、いい子にしてたよ!」
抱き着く彼女を「離れなさい!」と、引っぺがすすみれ。
密着した体を剥がされて、唇を彼女は尖らせている。
「ぶ~、冷たいなお姉ちゃんはぁ……」
その、いままで何度も聞いたことのある声で、全く持って子供っぽいことを言う彼女は、
「
「ん?」
名前を呼ばれ、ようやく俺に気が付いたと目を細める。
「……あぁ、あなたがふぉんとの妹になるんですね?」
姉に向けた態度から一変し、警戒した表情を向ける。
「そ、そうみたいですけど……」
ふぉんとが軽く会釈をする。
「宜しくお願いします……
「あ、こちらこそ、
「早速言わせていただきます……妹さん! 少しでも私にえっちなことをしたら出て行ってもらいます!」
指を突き立て、宣言される。
まぁ、そう警戒されるのも仕方がないか……。
「わかりました」
と———俺はその言葉を受け入れ、
「誠心誠意! ふぉんとちゃんのことをお守りさせていただきます!」
そう、宣言した。
〝守る〟俺が彼女を守ってやる。
そう決意した理由は、事務所で彼女の事情を聴いたからだった。
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