第三話 ハロー、刹那院ライアちゃん
ハロー、イケメンの自分。
超絶人気男性アイドル(の若いころ)と同じ顔になって人気配信者として好きなことをやって稼いでいくんだ。
配信者は顔を出すんだから結局は顔が良い方がいいに決まっている。
イケメンであればあるほど再生数が稼げるようになるのは自明の理だ。
モブ顔でつまらない人生を歩む自分を捨てて、イケメンで漫画みたいに波乱万丈な人生をこれから迎え入れるんだ……。
パチッと目が覚めた。
「知らない天井だ……」
麻酔が切れたようだ。
「目が覚めたか」
ベッドのすぐそばにりんが腰かけている。
「せんせぇ……しじゅつは?」
……あれ?
自分の喉を震わせて発しているはずの声が———メチャクチャ高い。
「完璧に成功じゃ。今までにやったことがない手術だったが、成功させるとは流石わしじゃ」
誇らしげに鼻を高くする。
「かんぺきにしぇいこうしたんでしゅねぇ……? なのにどうしてぼくのこえはこんなにたかくてしたたらずなんでしゅかぁ……?」
ナカタク顔のやつがこんな女みたいな声じゃ
「それは喉にある
「しょんなことできるんでしゅか?」
「普通の医者にはできん。わしにはできる。舌足らずなのは改造した喉におんし自身が鳴れておらんだけじゃ。すぐに慣れるから安心せい」
「しょうでしゅか……なんでしょんなことをしたんでしゅか?」
「サービスじゃ」
「サービス?」
「その顔で男の声ならカッコつかんじゃろ?」
何を余計なことをしてくれてるんじゃと内心怒っている俺に、りんは鏡を投げてよこす。
「ほれ、お前自身で確かめてみぃ、わしの完璧な手術の結果を」
鏡を覗き込む———そこにあった顔は、
「なんしゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
ぱっちりとした瞳に小さな鼻。そしてえらがないタマゴ顔で、〝女性らしい〟ぷっくりとした頬。
そう———女性の、しかも女子高生ぐらいのあどけない少女の顔が鏡に映っていた。
「こんなのアイドルの顔しゃねーかぁああああああああああああああああああああ‼」
「ああ、いわゆるあいどるの顔に整形してやったわ」
「ちがっ、アイドルはアイドルでも……!」
男性アイドルにだよ!
何、女の子の顔に整形して、しかもサービスで声帯まで女性のものに変えとんねん!
さらっ……。
長いウェーブがかったロングヘアが俺の目にかかって鬱陶しい。
「この髪の毛は?」
「ああ、移植した。おんしの先の男っぽい髪型だと短すぎたからの。女の髪の移植も普通の医者にはできんがわしには、」
「そうしゃなくて、色、色‼ 色がおかしい!」
エメラルド色だった。
爽やかな碧の輝く宝石の色。
「こんな髪の色して歩く人間何処に……」
いや、この髪の色に、この顔立ち……何か見覚えがある。
ジッと鏡の中を覗き込む。
「この顔の眼の下に薄紅色のチークを入れて、真ん中わけにして、小さな王冠乗せたら……
いや、なる! 絶対になる!
「この顔————
正確に言うと———リアルにしたらこんな顔なんだろうなという顔だ。
「ちょっとりん先生……参考にした写真どんなものだったか見せてもらっていいですか?」
「ああいいぞ。ほれ」
と、投げ渡される写真……ではなく画像はやはり……、
「やっぱりコレ……
ばちゃますの公式HPにある
「どういうことですかこれは……! 俺はナカタクにしてくださいと言ったじゃないですか!」
「だからそれがナカタクなのじゃろう? 今時は名前を縮めて〝あだな〟というので親しみを込めて相手を呼ぶのじゃろう?」
「
「じゃがおんしは確認したら人生で初めて尊敬した唯一の二人の内の一人その人だと確かに言っておったではないか」
「その二人の内もう一人ィ! ナカタクとふぉんとちゃんで二人ィ! もうどうしてくれるんですか!」
「どうしようもないな。言ったじゃろう。わしの整形手術は一度手を施したが最後、次にまた手を入れるとどうなるかわからん……と」
「え……」
確かにそんなことを言われた。
「じゃあ、俺は、俺の子の女の子顔は……」
「一生そのままじゃな」
「————————————ッ!」
めのまえがまっくらになった。
これから俺は女の子として生きていかなきゃいけなくなっ、
「まさか股間も⁉」
バッとパンツの中を見てみる。
「アァ……良かった、あったぁ……」
「そうじゃの。そのままでは中途半端だから……トルか?」
「トリませんよ‼」
鋏を掲げるりん先生に猛抗議する。
「だけど……これからどうやって生きていけば……イケメンYoutuberとして生きていくこれからのライフプランが台無しだよ……」
よよよ……とうなだれる。
そんな中、バンッと扉が開き、ある人物が現れる。
「おはよう!
声を張った声を部屋中に響かせた。彼女の顔は俺が良く知っている女の顔だった。
「姉ちゃん……」
きりりとした目じりにポニーテール、きっちりとしたスーツを身にまとったビジネスウーマン———
「……え、誰だって? せつないん?」
なんか俺のことをよくわからん名前で呼んでなかったか?
「あなたのことよ! ライアちゃん!」
ズンズンズンズン、俺ににこやかな笑みを浮かべて歩み寄り、俺の手を強く握った。
「初めまして、
「え? え? 俺の名前は
もしかして世界戦変わった? 別の平衡世界に跳んじゃった?
「私の弟、嶋行成は死にました」
「死んでないよ⁉」
「私の弟は死んだんです。だってもう戻れないでしょ?」
にやっと笑って、すみれは横を見る。
その先にいる蘭堂りん先生にぐっとサムズアップの親指を突き出し、りん先生もグッとサムズアップを返す。
「……まさか、姉ちゃん……これ全部」
「そう、私のせいよ」
「ナカタクの写真が
「すり替えておいたのよ!」
悪びれもなく自信満々に胸を張る俺の姉。
「いったいどういうつもりだ! 弟の人生メチャクチャにして! それでも社会人か! ……ちょっと待って、さっきの肩がきで変なこと言ってなかった? 姉ちゃんって芸能事務所の社長でしょ?」
「そうよ」
「それで、ばちゃますのプロデューサーもしてるとか言ってなかった?」
「そうよ。「ばちゃます」はうちの会社のRotuber部門内のプロジェクトだもの。私が管理していて当然でしょう」
「ばちゃますって事務所の名前じゃなかったの?」
「違うわよ」
「そんな……」
自分の愛するVtuberグループを運営しているのが自分の姉だと知り、大きなショックを受ける。言葉にできない失望感だ。好きな声優が実は身内だったというのに近いかもしれない。
「な~に落ち込んでんだか。そんなことどうでもいいじゃない」
「どうでもよくない」
「あんたはこれから「ばちゃます」の5期生としてデビューするんだから」
「……は?」
顔を上げる。
そこには天使のように見えるが、絶対に悪魔である姉の満面の笑みがあった。
「おめでとう、行成。あなたは一度死んで転生したのよ———美少女Vtuber〝
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