第41話 - ミラベルのキス

シグラ王はまだ気が気でなかった。

夜更かしまで父のそばで看護して寝ていたテシエス。

王の様子を見に来たセルフェとラミ姫は、テシエスに毛布をかけて部屋を出た。


「セルフェ、その手はどう?」


セルフェは手の痛みについて誰にも言わなかった。

相変わらず温和な顔で答えた。


「大丈夫。大魔法使いの私はこれくらいは耐えられる。 それでも早く解読しないと。 時間を延ばせば延ばすほど危険になる。」


「シャイルン王国の魔法使いたちも研究しているから、解決策が早く出てくるだろう。 心配しないで。セルフェ。」


ラミは背伸びをしてセルフェの肩を軽くたたいた。


「まるで私が少年だった時のように接するね。 ラミ姫。」


「まだ君が可愛い少年セルフェだと思う。 ホホホ。」


廊下を歩いていた二人は笑った。


ラミはセルフェと別れた後、部屋に戻った。

パジャマに着替えてベッドに横になった。

あれこれ考えていたら眠れなくて結局は起きて部屋の中を歩いた。

カーテンは風にそよそよとひらめき、月明かりは開いているバルコニーのドアから降り注ぐ。



静かな夜だった。


その時バルコニーに誰かの両足が軽く降りてきて,ラミはその音を聞いた。


「誰だ?」


ラミは素早く短剣を手に取った。


「ラミ。」


「この声は? まさか。ミラベル?」


月明かりを浴びて黒髪がきらめくミラベル。

冷たかった黄金色の瞳は以前とは違って優しい感じがした。


「お前がここにどうしたんだ?」


「バルコニーのドアが開いていたので、通りすがりに立ち寄ったんだ。」


「いや、ここは敵陣なのに勝手に出入りするなんて正気なの? ないの?誰かにばれたらどうするの? あと、怪我したところは大丈夫?」


ミラベルはラミに顔を近づけ,あごを手で上げた。


「私を心配してくれるの?」


あわてて顔が赤くなったラミは彼の手を片付けた。


「その……そうじゃなくて……。」


「それとも? 何?何?」


ミラベルはラミの柔らかい髪を頬に当てた。


「私は金髪は初めて見る。 色も美しいし、柔らかいんだね。」


「まさか周りに人が一人もいないの? 魔族だけがいるの?」


「毎日小言ばかり言うチュタと喧嘩しか知らない半人半馬だけいる。 みんなつまらないよ。」


「ミラベル、私があなたの友達になったら……。」


一瞬、ミラベルの顔が歪んだ。


「友達?今友達って言ったの? 私、ミラベルに友達なんていらない。 ただ金髪が不思議で来てみただけだよ。 カボチャに金髪がどんなに不思議だったか。」


「なんだ?カボチャ? そんな君は、ぼさぼさに髪の毛だけ多く、目は大粒のくせに。」


「このミラベル様にあえて何て? ハハハ。 」


「 ホホホ。」


二人は夜が明けることも知らずに話を交わした。

ラミはテシエスと500年間眠っていた話、故郷の話、世の中の話をした。

夜明けになって空がぼやけてくると、ミラベルが帰ろうと立ち上がった。


「ミラベル。私たちと友達になろう。 魔族から離れて。 みんな喜んで迎えてくれるよ。」


「私は友達はいらないとさっきも言ったよね。 私を歓迎するのは君一人で十分だ。」


ミラベルはラミにキスをした。


「好きな人間同士は口づけすると聞いたよ。 元気でね。」


ミラベルは軽く飛んで行き、彼の後ろ姿を眺めるラミの胸はドキドキした。

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