第3話 防衛戦

 町長の依頼により咲久耶さくや煉也れんやは第三百六十九コロニーへと向かっていた。

 どうやら三百六十九コロニーには町長たちの親戚がいるらしく、しかも大規模コロニーなので周囲との物資のやり取りに欠かせないコロニーだとか。

 そのコロニーにグレムリンが大量に発生し、防戦一方のようだ。


「でも随分と遠いよね」


 アスファルトがめくれ上がった道路を走り抜け、瓦礫の街を抜けて周りには木が増えてきた。


「第八百七十七コロニーからは約百キロメートル。走れば二時間で着くだろう」


「そうだけど~、私達には目的があるんだよ?」


「大規模コロニーになれば情報があるはずだ。そこで調べてからでも遅くはない」


「はぁ~い」


 約二時間山道を走り抜け、ようやく街が見えてきた。

 ここもすでに破壊されつくしており、まともに建っている建物は無い。

 だが一つだけ違うとしたら、何を言っているのか分からないグレムリン達の声があちこちから聞こえてくる事だろう。


 咲久耶さくや達は瓦礫に隠れ、五感を駆使してグレムリンの居場所を探る。

 しかしグレムリンの声に混じって銃声が聞こえてくる。


「お兄ちゃん」


「ああ、どうやら戦っている様だ。まずは銃声の場所へ向かおう」


 頷いて走ろうとしたが、地面に咲く花が目に入る。


「あ……リンドウの花だ」


 咲久耶さくやは地面に咲く青紫の小さな花を見つけた。

 小さな花は群れて咲いており、咲久耶さくやは一輪取ると煉也れんやの髪に差した。


麻耶まやが好きだった花だな」


 煉也れんやも一輪取り咲久耶さくやの髪に差す。

 リンドウが付いた顔を見合い、クスリと笑うと走り出した。

 かなりの速さで走っているが音がせず、お陰でグレムリンの声も銃声も聞き逃す事がない。

 周囲を警戒しながら銃声に近づき、途中で何匹かグレムリンを倒していく。


「あそこだ」


 いくつもの銃声が鳴り響き、時折その光が目に入る。

 そして銃声に群がるグレムリンの集団。


「百や二百じゃないね」


「五百……もう少し少ないか」


 銃でグレムリンを倒せているようだが、あまり命中しておらず威嚇射撃になっている様だ。

 咲久耶さくやは腰のバッグからソフトボール程の赤い球を取り出すと、煉也れんやは制服の左わきにしまってある大型拳銃デザートイーグルを取り出す。

 咲久耶さくやが赤い球を全力で銃声の方向の空に投げ飛ばすと、煉也れんやは少し間を置いて発砲する。


 数秒後、赤い球に弾丸が命中し、大きな爆発音と赤い煙が空から落ちていく。

 爆発はコロニー防衛隊の向こう側で起きたため、人もグレムリンも一瞬そちらに気が逸らされた。


 その隙に咲久耶さくや煉也れんやは攻撃を開始する。

 咲久耶さくやは左手に剣を持ち、右手にはオートマチックハンドガンで攻撃し、煉也れんやは右手にデザートイーグル、左手に大型ナイフを持ち攻撃を開始する。


 二人とも銃を派手に撃ちまくり、左手の刃物は補助として使っている。

 その甲斐あってコロニーの人達は救援が来た事を理解し、咲久耶さくや達に当たらないように攻撃を再開する。

 ものの十分もしない内に咲久耶さくや煉也れんやはコロニー防衛隊と合流する。


「助けに来ました。こちらの様子はどうですか?」


「も、もう来たのか。何とか持ちこたえているが防戦一方だ」


 コロニー防衛陣は中心に地下へと続く扉があり、その周りを半径十メートル程のバリケードが瓦礫で作られている。

 防衛の人数はそれなりだが、練度が足りない様だ。


「銃をお借りしてもいいですか?」


「ああかまわない。武器は沢山あるからな」


 煉也れんやは置かれている銃、自動小銃アサルトライフルを手に取り構えると、連射から単発に切り替える。

 数発撃ち頭に当てれば問題なく倒せることを確認すると、自動小銃を二丁持ってバリケードの外に出る。

 同じく咲久耶さくやも二丁持つと後に続く。


「私達はこっちを担当します。皆さんは別の方向をお願いします」


「え? お、おい待て!」


 制止を聞かず二人は走って行ってしまう。

 だが制止が無意味であることを瞬時に理解した。

 二人は走りながらも正確にグレムリンの頭を打ち抜き、二人が通った後にはグレムリンの死体が転がるだけだった。

 五分ほどで戻ってくるとすでにグレムリンの数は半減しており、練度の低い防衛隊員でも焦らずに攻撃できるようになっていた。


「……凄いな、君たちは一体何者なんだ?」


「私達は第八百七十七コロニーから来た救援隊です。隊と言っても二人だけですが」


「兄さんがいればグレムリンなんて問題ない。弱い奴がいる方が足手まとい」


「そ、そうか。いやどちらにしても助かった、ありがとう」


 どうやらこの人は防衛隊の隊長クラスの人物のようだ。

 服装は軍人らしく市街地用迷彩服を着ている。


「しばらくは大丈夫だろう。まずはコロニーで休んでくれ」


 相変らず両扉のような片開きの扉が開くと、中には階段がある。

 前のコロニーと違うのは、階段を一階分降りるとエレベーターがある事だろう。

 広めのロビーの様になっており、左右に大型エレベーターが四機ずつ設置されているが、階段もしっかりと下まで続いている。


 久しぶりに見た大型エレベーターに咲久耶さくやは喜んで乗り込むと、煉也れんやと隊長は少し微笑んでいた。

 ここも地下百メートルまで降りると、前にいたコロニーと同じような景色が広がっていた。

 大きな柱がたくさん立っているが、違うのはその広さだ。

 大規模コロニーは三十キロ×ニ十キロメートルもあり、中規模コロニーの十倍ほどもある。


「さて、まずは休憩場所だが――」


「いえ、私達は休まなくて結構です。資料室に案内していただけませんか?」


「資料室? なんでまた?」


「私達は悪魔を倒す方法を探しているからです」


「悪魔ですか、恐らく今晩あたりに現れるでしょうね」


「悪魔が来るって……本当?」


 珍しく咲久耶さくやが反応すると隊長は首を縦に振る。

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