第3話 目を背けられる存在になってみて思うこと
結局その日は4人に抱かれた。最初の人が一番高くて、あとはちょっとずつ下がっていった。売上100デール。クロエちゃんに約束の半分を渡して、ティヌリ分も引いたら実質45デール。私の交渉に付き合ってくれてたとはいえ、クロエちゃんの売上が50デールもなかったことを考えると、新人の私はよく売れたと言っていい。異国のお姫様という設定と、クロエちゃんの交渉のおかげだ。私はひたすら痛がってただけだけど。
メンタルもゴリゴリに削れた。一回ごとに中庭の水道でアソコを洗うのだけど、その時冒険者に飛ばされるヤジがキツい。
キツいと言えば、冒険者には女性もいて、結構可愛い女の子だったりするのだけど、彼女らの目もキツい。見下すとかそういうレベルじゃなくて、値段交渉してるときなんて、もう視界に入らないように目を背けられる。彼女らにとって、私らって汚物レベルに見えるんだろうな。クロエちゃんなんかは、それが当たり前で気にならないらしい。前は人権あった私は、逆になんかごめんなさいって思う。
一日が終わって、受付のカウンターの裏の金庫に5デール入れて、ティヌリを喉に流し込む。
「どうだった? 今日」
クロエちゃんに尋ねられる。
「死にたいと最悪の間くらいかな」
私は素直に感想を言う。
「コウ、よく頑張ったよ。でも、もうちょっと声出したほうがいいかな」
バレー部のときもそれ言われたなって、ちょっと懐かしくなった。
クロエちゃんはティヌリの瓶を手にしている。彼女はまだ飲まない。もうひと仕事するつもりなのだ。
「なんせ、痛くてねえ」
「最初はそうだよね。あたしもそうだったよ」
「なんか良い方法ないのかな」
「ルーン草使えば手っ取り早く気持ちよくなるけど、オススメしないなあ」
「ああ、アレね……」
私は顔をしかめる。
ルーン草は言ってしまえば麻薬だ。冒険者が恐怖心を和らげたり、怪我の痛みを誤魔化すのに使うので、ギルドでも扱ってる。吸わされたりするのがきっかけで、手を出しちゃうメイドもいるらしい。依存性が結構あって、最終的には廃人になる。
それでもこの世界じゃ合法で、むしろ大きな産業になってる。割とこの世界ってクソだと思う。
メイドはホールで食事を取ることは許されていないので、厨房の隅で立ったまま夕食を取る。バゲットを1万倍硬くしたようなパンと、ごった煮みたいなスープが1日2食。冒険者が持ち込んでくるモンスターの肉を買い取っているので、これでも食事レベルは高い方だとか。
ほかに干し肉とかチーズはいつでも食べていい。美味しくないけど。
水は水道は流石にそのまま飲めないので、白湯にするかワインを飲む。
ティヌリとワインの飲み合わせが最高に眠れるってこの日知ってからは、私はワイン派になった。
服を脱いで布団に潜り込む私を横目に、クロエちゃんが扉を出ていく。
1階の東棟が冒険者たちの宿泊施設になっていて、そこに行くつもりだ。
宿屋より安いので、駆け出しだったり、年を取って仕事がなくなったりした冒険者が利用している。昼間女を買えなかった男たちに、彼女は春を売りに行く。昼間より稼げないし、ギルド公認のサービスじゃなくて、黙認されているだけだから、宿代や借金を踏み倒して逃げようとしている冒険者に、ついでに強姦されてしまうこともある。
「妹がいるんだよね」
クロエちゃんが話してくれたことがある。
「馬鹿だから、計算出来なくて、字も読めなくて、でもあたしより可愛いから、娼館に売られちゃった。買い戻してあげたいんだ」
娼婦の寿命は短い。ルーン草漬けになるか、病気になるかでたいていは二十歳そこそこで命を失う。吉原みたいだ。
でも、娼館よりメイドのほうが稼げるのは意外だった。
「ここって意外と待遇いいんだよ。ちゃんと稼げるし。衣装代とかかからないし。農園に売られたら、稼ぐ手段ないから、御主人様の子を生むか、よほど気に入られて解放されない限り、一生奴隷」
クロエちゃんはこのとき17歳だった。なんと年上。
両親は辺境の農園奴隷。奴隷の子供は奴隷なので、彼女は生まれながらの奴隷だ。主人は、賢く言語系のスキルを持っていた彼女に読み書きと算数を教えた。そのほうが高く売れるからだ。
やっぱり、この世界ってクソだと思う。神様がいるなら、そいつはとんでもないクソ野郎だ。
それでもクロエちゃんは神様を信じている。毎朝神様に熱心に祈っていた。
この世界の人たちは、だいたい信心深い。契約なんかのときも必ず神の名のもとにって言う。
私をレイプしたパウロですら、よく救いを求めていた。お前なんか救われるわけないだろと思うけど、この世界のルールでは、私を神の名のもとに買っているので、あれはアリで救われちゃうのかもしれない。
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