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 電気が消えた部屋で、群青は自分の鼓動に叩き起こされた。


 心臓が、自分とは別の独立した生命体のようにうごめいている。


 節々が痛む体に鞭を打って、群青はおそるおそる病室を出た。


 鼓動と共に歩幅が狭くなり、足は段々加速していく。ある病室に辿り着くまで、そう時間はかからなかった。


「……」開けるべきか迷いつつ、群青は横開きのドアに手をかけた。そのまま、音を立てないよう開く。


 目の前に横たわる女性を見下ろすと、鼓動が数倍早くなった気がした。


「ハ……ハ」日黒先輩は、声と思えない声を上げていた。虚ろな目で、部屋に入ってきた群青を見ている。


「な、で……たの」


 なんで分かったの?そう言っている。


 なんで分かったんだろう?野生の勘みたいなもんだろうか。


 ともかく、先輩の容態は思っていたより遥かに悪かった。いや、もう絶望するほかなかった。


「ごめ……ね」


 彼女は確かにそう言っていた。群青は顎が壊れるのも気にせず、彼女の耳元に口を寄せた。


「諦めないで。先輩は、元気な人じゃないですか」震える声を絞って伝える。


 その言葉を聞いた先輩の瞳に、薄い涙が浮いた。布団をかきわけ、震える手を突き出してくる。群青はその手を強く握った。


「まだし……ね、な……。まだ」


「まだ、生きたい」そう言う先輩の表情かおには、未練と希望とが混ざっていた。


 その時、ナースコールで呼ばれた看護師が駆け付けた。


「どうなさいました!?」


「容態が、わるく、なって」群青は必死になって先輩を指差した。


 看護師もなにか悟ったのか、即座に医師を呼ぶボタンを連打していた。


 先輩の方へ視線を戻すと、さきほど苦しそうにしていたのが嘘のように――。


 嘘の、ように――。


「日黒さん」群青は戸惑って、何度かその名を呼んだ。顎も胸も痛くはなくて……ただ、夢であってほしいと荒ぶる心臓の音だけが響いていた。


*


「お悔み申し上げます」

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