第55話


その後も戦闘が続く。

相手側の連撃を何とか交わしつつ、ハンマーを振り、魔法を連射する。


何人か気絶させたが、最初の剣士が倒せない。

別格に強い。

レベルは遥達の方が上だが、テクニックだけなら遥達をしのぐかもしれない。


そしてしばらくして相手が一気に俺から離れた。


ん? どうした?


気を抜くと、魔法狙撃が飛んできた。大きい。


「な! 人質ごと!?」


俺は慌ててシールドを張って人質を守る。

シールドが氷結魔法によって凍り付いていく。


攻撃が続いているため盾が閉じれない…。


「そんなにも商品が大事か。外道」


剣士がそういいながら魔法狙撃の中切りかかってくる。


いや外道って。人質ごと撃つ方が外道だろう!


よけれないのでハンマーの持ち手部分で受けて、そのまま片手で吹き飛ばす。


「ッチ」


剣士はそういいながら回転して着地した。


時間と魔法狙撃により、スモークがはれてきた…。




煙がはれたビルの中では壊れたものが散乱していた。

わずかな明かりでも十分に見える。


人質がいるところは俺が守っていたから無傷だ。

というか、あれ、誘拐された女子達いつの間にか移動していた?


あれ、ほとんど食らわない位置だったのか…。

無駄に守ってたな。


だが、ここにいた奴らすべて倒れていた。

と言うか死んでいた。

悲鳴が聞こえるなと思ったらあいつら殺されてたのか。


「人が死んでるんだが」


死体とかみるの久しぶりだな。


「…死体を見るのは初めてか? ゴミ屑女。おまえらが人身売買で儲けるためにどれだけの人が死んだと思う?」


目の前の剣士は暗視ゴーグルのようなものを顔につけてこちらを見ていた。声の高さから女性だろうか。


というか、めっちゃ誤解が生まれてる。


「…いや、俺は違うけど」

「堪忍しろ」


聞いてねぇ。

階段から音がした。


「隊長! 下二階は制圧しました! 残りはこの階のみです!」

「おう」


そして別の階から増援がやってきて、俺を攻撃するべく身構える。

いや流石にこの人数は不味い。


「ちょっとまて! 本当にここの人たちとは違うから! 免許証見せるから!」

「…見せてみろ」


俺は遥からもらったカードを取り出してあの強かった剣士に渡した。


ほかの隊員はこちらにらみつけながらを警戒している。

いやぁ怖いから落ち着けよ。


「神々廻の特殊護衛員?」

「隊長。『リュミエハーツ』がこちらに来ていると報告が入っています」

「ああ、だがあいつらは福岡に来ているはずだろう」


後ろにいた別の隊員が声をかけて、那須は機械を取り出して、俺のカードをそれに当てた。


リュミエハーツの事を知っている…。

いや有名人だしな。


「鹿場コノカ。本当に来ているな。遺跡調査か。それにしても鹿場ね…」


そういって俺のことを調べる。


「準1級だと?」


あー…。

準1級ってほぼダイバー未満の一般人なんだよな。確か。


神々廻としても正式なダイバーは難しかったんだろうな。

文句は言うまい。


俺は当然ですが何か、みたいな顔をした。

話題を逸らそう。黙っていたら相手のペースだ。


「それで、あんた等は誰なんだ?」


「…ダンジョン協会警備部所属の那須だ」

「警備部?」


警備部って以前に第1級のダンジョンで会ったことのある人たちじゃないか?

ここダンジョンじゃないのに何でこんなところにいるんだよ。


「鹿場コノカ、なぜここにいるんだ?」

「女性が誘拐されていたからな」


迷いがあったのは俺だけの秘密だ。

ここは堂々としなければもっとつっこまれる。


「あんたらは?」

「…神々廻には今日ここで作戦があると伝えていたはずだが? それでも介入したのか?」

「え 作戦?」

「…九州の人身売買組織の制圧作戦だ」


遥達が向かった作戦ってこれのことなの?


いや、さっきの那須が言っていたことと合わせると、これと同じことを福岡でやってるんだろうな。


「い、いやぁ。やっぱ目の前で犯罪が行われていたら放っておけなくてね」

「…なら、作戦に参加しろ」

「隊長?」

「こいつは使える。おまえが本当に神々廻の人間なら従うよな? あそこは人助けが好きだからな」


む…。

神々廻のカードを使った以上、確かにここで協力しないと遥達に迷惑をかけるな…。


下手に使うなと言っていた杏奈の顔を思い浮かべてしまう。

神々廻のカード使って、名を汚したらなんて言われるか…。


杏奈は怒髪天、紬はニコニコ顔で嫌みを言い、遥はただただ悲しむだろう。

なんか想像つく。


正直逃げてぇ。

ちょっとタピオカ飲みによったら焼き肉屋に通された気分だ。

胃もたれ起こしそうだ。起こしたらスライムに変化するか。


まじめな話、カードを使った以上逃げれないな…。

遥の顔が思い浮かぶ。


…はぁ。


ヒーローレベルあげるためのボーナスステージだと思おう。

一歩、さらに一歩。


「わかった。従うよ」






「隊長、よかったんですか?」

「…負傷者は?」

「あいつにやられた隊員が数人。幸い打ち所がよかったのか気絶のみで復帰可能です」

「違う。俺たちは手加減されてたんだよ」


「え?」

「あの威力、間違いなく俺たちより明らかに高レベルだ」

「それが、準1級?」

「カード自体は本物だった。神々廻のお墨付き、それにあの強さだ。利用しない手はない」

「…わかりました」

「本隊との連絡はとれるか?」


「とれますが。神々廻に確認しておきますか?」

「ああ、一応な。それと支援部隊に連絡して誘拐された人達を近くの支部に運ばせろ」

「了解」



「神々廻め。いいペットを飼ってやがる…。うちにほしいな」


ダンジョン協会警備部平和維持課第4班隊長の那須あやめ。

彼女はいつでも新人を歓迎していた。というよりねらっていた。

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