第37話

「これで終了ですか」


遥の声がインカムから聞こえてきた。


終わりか。

俺は岩上に座り込んで、霧の晴れたフィールドをぼーっとみた。


案外行けたな。

最初の一撃が一番やばかった感じだ。


まぁ、途中で一撃で死ぬビームや、つかまれば延々と蛇にかまれるのとかもあったが…。


それに後衛を一撃死させようとする敵もいたし・・・。

そう考えるとやばかったか。


とはいえ誰一人死んでいないのはいいね。。


…ボス戦って結構人死ぬらしいんだよな。

それで上目指すのやめる人が多いらしい。


裏ボスっていうから何なのかと思ったけど、何とかなったわ…。


そして急に巨大な間欠泉が噴き出した。


おおー、間欠泉だ…。


「は?」


間欠泉?


次から次へとフィールドが爆発していき、間欠泉が発生していく。


何だよ、これ!


「お嬢!」「お嬢様!」


紬と杏菜の声が聞こえる。


は! 遥、巻き込まれたか!?


さっき遥をハンマーで飛ばした方向を見るが遥の姿は見つからなかった。

間欠泉がそこらじゅうで発生し、見通しが悪すぎる。


他のメンツは岩の上にずっといたためにこの間欠泉の被害にあっていない。


俺は急いでフィールドの中央に向かう。


「間欠泉が邪魔すぎる!」


間欠泉の妨害にあいながらも、フィールドの中央に到達するころには間欠泉が止まっていた。


そしてフィールドの様相が変わっていた。


岩下はいつの間にか浅い湖ではなく岩下まで届く深い湖となっており、そこから水が中央を中心に回るように流れていく。


やがて水は上昇し、水の竜巻が発生していた。







間欠泉は遥の体に強い衝撃を与えた。

一瞬で身動きができなくなるほどであった。


上空に飛ばされ、飛びそうな意識の中で彼女はHPを確認していた。



神々廻ししば

レベル:71


HP  :0/6320


MP  :224/639


力  :578

速力 :577

体力 :564

魔力 :603

運  :586


所持スキル :「上級剣術」「上級盾術」「上級火炎魔術」「上級回復魔術」  「下級魔法剣術」…




これでは…。まともに攻撃を喰らってしまう。


遥は何とか態勢を整え、着地をしようとしたが、体が動かない。

何もできずに落下していく。


そして水面に到達すると、そのまま下に沈んでいった。

間欠泉が打ち上げられた後のフィールドは、いつの間にか浅い湖から深い湖に変わっていた。


遥の体が湖に沈んでいく。


沈んで沈み切った後、湖に流れが生じた。

水は重く力強い。

ダメージを受けた遥では体を動かすことができなかった。


遥の体は流れに流れ、やがて水の中にいたまま上昇していく。


気づけば彼女は天井にまで届くほどの水の竜巻に飲まれており、その中央にいた。


不思議とその中心には流れはなかった。

呼吸はできる。だが出ることはできなかった。



水の牢獄。



そして水の竜巻の目の前に、いつの間にか龍が現れる。



水でできた龍。


蛇に翼を与えたような、東洋の龍のような何か。


ところどころ最初の蜘蛛が持っていたような装甲をまとっていた。


その龍が口先に何か光をためていた。

最初の蜘蛛型のビームのように。





…ああ、私の番か。





あの攻撃がくれば、私は死ぬでしょう。


死が目の前にきて、遥は冷静になった。


これはおそらくメイジ型のボス。


最初の遠距離型からきて、タンク、アサシン、サモナーと続いた。

最後の一体はメイジですか。


おそらく最初の蜘蛛型の一撃で殺しにかかり、殺せなければサモナーでボスの魔石の限り召喚して疲れ果てさせた後、この大規模攻撃による締めの一撃。


全ては仕組まれていましたか。。

幸いにして霧を晴らすという力業でサモナーを倒したため、飲み込まれたのは私だけ。


そう思うと運が良かった。


フィールド全体にわたる間欠泉から、それらをまとめる水の竜巻。

これだけの広範囲攻撃。

そして締めの一撃。


いくらボスといえど、これだけ使えばその後の隙は確実なはず。

であるなら、エマ達だけでも、なんとかなりますね…。




それにしても確実に命を持っていく代償型ですか。

ダンジョンは相変わらず残酷ですね。


ダンジョン。

多くの人間に夢を与えヒーローとした。

そして多くの無敵のヒーローをただの人間に貶めた。



スタンピード、ダンジョンボス、ダイバーたちの犯罪。

私が生まれた時代はダンジョンに纏わる様々な問題があった。

皆、このダンジョンという魔物に踊らされた。



『リュミエハーツ』のパーティメンバーの半分はその魔物の被害者だ。


瑞樹は両親がスタンピードで死んだ。


莉奈は母親がダイバーだった。そしてダンジョンボスに殺された。父親は蒸発。


エマはダイバーたちの犯罪に巻き込まれて、引き取られた子だった。

両親の行方はわからない。


私は、神々廻ファミリーの人間として育てられた。

様々な不幸をまき散らすダンジョンから利益を得る人間として。



変えたかった。

ダンジョンから利益を得るものとして、この現状を変えたかった。

不幸に会う人達を救えないかと考えた。


昔から憧れていたヒーローのように。


だが、中途半端な力では中途半端な救いしかできなかった。

いつも目の前で人が不幸になっていく。


そしてより強くなることを目指し、ダンジョンに潜り続けた。

いつか見た映画のハッピーエンドを目指して。


私を救ってくれたあのダイバーのヒーローのように。




…結局、私はヒーローになれなかったな。


「ごめんね。雪」





そして、水龍の攻撃が放たれた。


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