第36話

…!


迫るアサシンスネーク。

霧から飛び出し、一瞬で俺の目の前に来る。


「シャアアア!」


牙。

歯並びきれいだな、おい。


体をずらし、その牙を間一髪で避ける。


アサシンスネークが俺の横を通っていく。

その様子を見ながら、盾を起動して押しのけるように吹き飛ばす。


アサシンスネークは身体を折り曲げながら、霧の海の中に落ちていった。

すぐに俺は追撃を行う。

岩を駆けて、霧の海の中へと突っ込む。


いた!

アサシンスネークが姿勢を整えて、逃げようとしている。


ハンマーに力を込めるとその頭の部分が輝く。

アサシンスネークに一気に近づき、その胴体に向けて思いっきり振り下ろした。


攻撃を喰らったアサシンスネークは一瞬で霧となっていった。

流石攻撃特化型。一撃死とはすがすがしい。


そしてそのハンマーの勢いで俺の周囲の霧が吹き飛ばされて一瞬晴れていく。

結構広範囲が晴れたな。


「アサシンスネーク、一匹じゃなかったのか?」


思わずつぶやく。


「こちらは確実に倒したよ」


紬が答えた。


「復活? 核がどこかにあるのかな」

「ひょっとして霧の中にまだ大量にいるのか?」


エマと俺が考えを言う。


「霧が晴れた…?」


俺たちがアサシンスネークのことを話している間、遥は霧のことを気にしていた。

いや霧でまだ周囲いっぱいですよ?


「霧は晴れてない、よ?」


遥に言う。


「いえ、フィールドであるなら、一時的でもあそこまで晴れることは無いはずです。」


へぇ、普通の霧とは違うのか。

ダンジョンの不思議ってやつか?


そして遠目に再び、タンクスネークがのっそりと現れた。


「またタンクスネークが出てきたぞ…」


これ、またあいつ倒さないとダメなパターン?

けど倒しても復活するんじゃ…。


蛇叩きの達人、もう一回遊べるドン?

二次会はビスケットバイキング?


ノーセンキューだよ…。


「もしかしてこの霧はフィールドじゃない? 別のモンスターが出したってこと?」


そういうと遥はハッとした顔をした後、悔しそうな表情を見せた。


「莉奈、もう一度アサシンスネークの囮になって! エマ! 風を!」

「もう時間はそれほどないぞ」

「大丈夫、囮になるだけでいいです」

「あいよ」


時間ってスキルのことかな?


「遥、風って?」


エマが尋ねる。


「魔石を使ってフィールド全体の霧を晴らしてください!」

「わかった、紬さんお願い」

「わかったよ」


なんか決まったらしい。

俺はどうするんだろう。またあの大蛇か?


「あの大蛇はどうするんだ? また攻める?」

「いえ、今度はしばらく逃げます。あと旭は私を守ってください」

「? わかった」





そして始まった。


「そなたは四神が一人、暴風を司りしもの」


エマの詠唱が始まる。


遥は何やらまたチャージしている。

そして俺は迫る子蛇を倒しつつタンクスネークのブレスをよけていた。

莉奈がアサシンスネークの注意をひきつつ逃げ続けている。


「全てをあばく風を願わん」



紬が何か魔石を次々と上空へと投げた。

その魔石はフィールドの各地に等分に散らばっていく。

シンプルにすごい。


「すげぇ」


「敵なるは罪を逃れしもの」


感心していると、遥が声をかけてくる。


「旭、私を上空に」

「はい?」

「ハンマーで上空に打ち上げてください」

「お、おう」


ハンマーで人飛ばしたことないから、上手にできるかな・・・。

いや、そんな経験があったらそれはそれでおかしいけれど。


やるっきゃねぇか。


「その衣を剥がし、罪を明らかにせよ」


俺はハンマーを構えると、それを軽く回す。回していく。

そしてその途中で遥がハンマーの平らな頭の部分に乗った。

俺は上へと目いっぱい飛ばす。


「ノースウインド!」


エマを中心とした風がふく。

フィールド全体で、紬が投げた魔石がエマの魔法に次々と反応し、連鎖発動していく。


魔石は発動すると、爆風を広範囲に巻き起こす。

攻撃力はない。

だが霧が晴らすには十分だった。







「見えた!」


旭のハンマーにより上空へと飛んだ遥は、フィールド全体を見渡した。


霧が晴れ、その姿が明らかになった。


先ほど見た白い蛇でも赤黒い蛇でもない青い蛇。

体中が魔石まみれにで、胴体の真ん中が丸く膨らんでいる。

おそらく体の中に核があるのだろ。


その青い魔石蛇が先ほどの誰とも離れた場所にいて、再び霧を発生させようとしていた。

青い魔石蛇の周りにうっすらと霧が出ている。


「やらせません」


遥は移動するべくチャージした魔法を使う。


『風天』


体が風をまとい、宙を自在に動く。

彼女は空間を風と共に自由に動けるようになった。


「ふっ」


一息つく間に青い魔石蛇の目の前に移動した。


「シッ」


抜刀。


刀をいくつもふるう。


青い魔石蛇の体は柔らかく、刀は魔石ごと体を切り裂いていく。

そして腹の中にあった核がバラバラにされていき、塵となっていった。


魔石蛇は死んだ。


「タンクスネークが消えた?」

「こっちもアサシンスネークが消えたぞ」


旭と莉奈が報告する。


「敵の正体はサモナー型の青い蛇でした」


敵の正体はタンク型でもなくアサシン型でもなかったのだ。

召喚者であるあの蛇が消えたから、召喚されたあのタンクスネークとアサシンスネークが消えたのだ。


「危ないところでした。気づかなければ、あの二体と霧相手に無限に戦うところでしたよ」


最初にフィールドと勘違いさせるところから、敵の攻撃は始まっていたのでしょう。


「う…」


遥は膝をついた。急いでポーションを飲む。

だが、体全体が疲れているのがわかる。


しかし、スキル『魔法剣』は中々体力を使いますね…。


チャージも必要だし、使うものによっては使用後の硬直もある。

いざというときしか使えないため、死と隣り合わせのダンジョンでは大概の場合、スキルの肥やし扱いだった。


「莉奈、大丈夫かい?」

「ああ、解除してちょっと休む」


莉奈と紬が話している。

莉奈のスキル『魔物憑依』は反動が大きい。

使った後はしばらく動けなくなるのだ。


まぁ、あれだけ体格が変われば当然でしょうけどね。

大食い大会にまた行くのでしょうか。莉奈は行くのでしょうね。



空が青くなっていき、最初の赤黒い空ではなくなった。


ボス戦が終了しましたか…。


「これで終了ですか」






そして間欠泉が遥の足元で発生し、彼女の体は宙へ飛んだ。

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