第28話

遥はあの男が撃たれながら走っている光景をじっと見ていた。


速いですね。

あの変態男、私たちと同じくらいのレベルでしょうか?


先ほど湖を泳いでいる姿を見ても思ったが、ただの変態男ではなさそうだ。

あれなら、しばらくは持つでしょう。



「遥、どうする? 使うか?」


莉奈が遥の乗っている岩の上に立ち、切り札を使用するかどうか聞いてきた。

まともにダメージが与えられなかったのは莉奈もわかっていた。


だが、まだ早い。まだ攻略しきれていない。


「いえ、ボスの攻撃の最中の防御力も知りたいです」


あれだけ固かったんだ。攻略するのに何か条件があるはず。


そして二人は攻撃を再開する。


「関節を一つ狙ってください。合わせます」

「わかった」


莉奈は自分たちにヘイトが向いていないと見るや、大きく跳躍し大振りで双剣をふるう。

関節へまっすぐと刃が落ちる。


同じ場所に遥の方も跳躍し居合い切りを行う。


切断はかなわずとも傷はついた。

先ほどとは違う感触。防御力が下がっている?


「いけそうだ」


莉奈もそう感じたようだ。

二人で何度か攻撃を続ける。


ビキッ。


ひびが入った。


「もうすぐで」


「よけろ!」


莉奈の叫び声が響く。


はっとしてボスを見ると、いつの間にかヘイトがこちらに向いていた。

何個もある眼の一部がこちらを向いている。


砲塔からビームサーベルが出る。

光の残像を出しながら、真上から私のもとに振り下ろされる。


「流石にあれだけ攻撃すればヘイトが向きますか」


遥はとっさに横に跳躍し、転がるように受け身を取った。

ビームサーベルが湖の水を蒸発させる。


ボスはそのまま体を素早く動かし、振り下ろされたビームサーベルを、凪払いの一撃に変える。


軽く跳躍してそれを縄跳びのように避け、さらに後ろに跳躍してボスから離れる。


遥の体に冷汗が流れた。


「油断すると一撃死ですね…」


先ほどの肌で感じた威力は、HPを紙装甲としているのが十分に伝わった。


そして遥にヘイトが向いている間に、莉奈が上から更なる攻撃。


「折れたぞ! だけどこれは…」


「みず?」


装甲で覆われた体の中は水だった。肉などは見れない。

元々機械じみていたから肉があるとは思わなかったが、水とはいったい…。


そのまま莉奈にヘイトが向かうかと思ったが、ボスは後ろに大きく跳躍した。


速度がはるかに速く、私たちでは追いつけない。


「従来の遠距離タイプと変わらない。攻撃されれば基本距離を取る。距離を取る前に一度は近接攻撃をしますか? そして、攻撃の最中は防御力低下」


遥は歯噛みした。


しくじりましたね…。

悠長に確認せず、切れると予想して事前にエマに最大火力を頼めばよかった。


「エマ、位置は?」

「移動中です」


紬が答えた。彼女が足になっている。

敵が移動したのでエマ達も移動しないといけない。


「完了したら教えて」

「かしこまりました」


攻撃の手を見せた。そのうえで。


「ヘイトが他に向いていた時に、近づけるかどうか…」


近づけなかったらもう無理かもしれない。

さっきのが最初で最後のチャンスだったかもしれない。

だが行かねば。


そして、再びボスに接近しようと駆けだすと、あの変態男がボスに攻撃しているのが見えた。







俺が敵のマシンガンビームを避けるために必死に走っていると、いつの間にか攻撃がやんでいた。


「あれ?」


無我夢中に走っていたので、ボスのはるか後ろにまで来てしまった。


先ほどまでの全身の震えは、走っている最中に止まっていた。

だがその代わり逆にハイテンション気味なのにも気づいていた。


やってやるぞという気概に満ちている。

いかん、これこのままだと絶対にポカミスをする。

分かっているけど抑えられない。



「マシンガンどこ行った!」


どうしたんだ、あのボスは何をしている?


ボスを見ると両手の砲塔から極太のビームサーベルみたいなのを出していた。


「…あんな攻撃もしてくるのか。 あ、あれさっきの人達か」


遠目に巨大なボスに攻撃する人が見えた。


そしてボスが無視を追い払うがごとく、極太ビームサーベルを振り回す。


「げっ。あれ一撃死なんじゃ」


だが見ていると、彼女たちはその攻撃を難なく避け後退していた。


ボスの足がすぱりと一本落ちる。


「…すげぇ」


一本落とされると、ボスは残りの足を使って後ろに大きく跳躍した。


ちょうど俺がいるところに。


「きた!」


俺はあわてて武器を構える。

包丁『貝切』に力を籠める。


8本ある足から7本足となったボスがこちらに落ちてくる。


…どこを狙う?

正直、ボス戦は初めてだから、どう攻略すればいいのかわからない。


元々ステータスをごり押しするつもりだったし。

…彼女たちに倣うか。



着地したところを狙う。

ちょうど岩で俺が見えにくかったのか、ボスはこちらに気づいていなさそうだ。

ボスは素直に着地し、マシンガンを彼女たちに向かって打とうとする。


やらせるか!


素早く駆けだし、『中級剣術』を起動し、ボスの関節めがけて包丁を振りぬく。


ボギッ!


「ああ! 俺の『貝切』が!」


俺と1年以上苦楽を共にした相棒がボキンと折れてしまった!


うそだろ! 

やっぱ包丁じゃ無理だったのか! いや当たり前か!


1年以上共にしたお前のことは忘れないぞ!

ほぼキッチンの引き出しの中だったが。



だが、『貝切』の犠牲の甲斐あってか、足は装甲ごと切れた。

ステータスの力900台は伊達じゃなかった。

やっぱステータスは正義だったんだ。


これでボスの足は前足二本が切れて、残り六本となった。


ボスは慌てたのは砲身を俺へとふるう。

俺はボスの砲身の攻撃範囲外に避ける。


その避けた俺に、今度は砲身から伸びたビームサーベルによる追撃が入った。

熱を帯びた赤いサーベルが俺を飲み込もうと振り下ろされる。


あんなの食らったらいくら俺でも一撃死だ!

受けることは考えてはいけない。


横にとっさに避けると、水が熱で一瞬で蒸発する。

じりじりとした熱が肌に伝わり、心臓の音を早める。


攻撃はそれで終わらない。


一振り、二振りと俺を包丁で切るかのようにビームサーベルを振り下ろし、食らわないと見るや、三振り目の低い薙ぎ払いがくる。


きりがない! いったん距離を稼ぐ!


後方に逃げるために大きく高く跳躍して避ける。


「お馬鹿! 遠距離持ち相手にそんなに高く飛ぶなんて!」


え?

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