第27話

湖を疾走しながらボスの元へむかう遥たちは困惑していた。


先ほどあれだけの攻撃をし、瑞樹の片腕を飛ばした巨大なボスは、冷却期間に入ったのか沈黙している。


そして遥たちが近づいてもこちらにヘイトを向けなかった。

微動だにしない。


…このボス、何故こちらに向かないのですか?


普通のボスは、私たちが近づいたらヘイトを向け、攻撃を仕掛けてくる。


遥は困惑しながらも莉奈に指示を出す。


「莉奈、まずは回避重視で!」

「あいよ!」




『飛剣』


遥と莉奈は遠距離からそれぞれ刀と双剣をふるい、斬撃を飛ばした。

何枚もの刃がボスへ迫る。


だが、斬撃はボスに接触しただけで霧散した。

ボスはダメージを食らったそぶりすら見せない。


「ほぼダメージ0か…」


莉奈はさらに加速し、低く身軽に跳躍し、ボスの八本ある足の一つに双剣をふるった。


ガキン!


硬質の音が鳴り、莉奈はそのまま反撃を警戒して駆け抜けた。

胴体の装甲の部分よりも柔らかいと想像した足は全く傷つかなかった。


「こいつ! 固い!」


そして莉奈が攻撃しても反撃の様子はなかった。

攻撃に気づいていない可能性すらある。


「…生意気な」


その後も攻撃を続けるがダメージを受けた様子はなかった。





一方で遥の方は、斬撃を飛ばした後、ボスの周囲を走りながから火魔法を左手から放つ。


グローブについた魔石がきらりと光り、人ほどの大きさの火球が飛び、ボスの胴に接触し、燃え上がる。

だが、ダメージを受けた様子はなかった。


移動しながら火魔法を放ち続ける。


「ダメですか…。しかし、固いですね」


その間もボスはじっと、瑞樹たちの方を見ていた。

こちらにヘイトは向いていない。


ひとまずうちの最大火力を軽く試す。


「エマ、準備は?」

「いつでも。属性は?」

「雷を。 莉奈! 岩の上に!」


二人は離れて、跳躍して岩の上にのる。

すぐにエマによる狙撃が行われ、雷の光がボスへと向かった。


雑魚なら丸ごと一掃できる魔法だ。

ワイバーンだってあれを食らえば飛べなくなる。


だが、雷が通り過ぎた後のボスは先ほどと変わらなかった。

何かダメージを食らった様子はない。


「ダメージなし? おそらく苦手属性の雷なのに、ですか?」


一番火力の高いエマの一撃で傷一つない。


なにか、他の弱点か、もしくは手順を踏まないと倒せないタイプですか?


だけど、おそらくそろそろ次の射撃が…。

このままでは次の一撃が瑞樹たちに向けられてしまう。


先ほどのビームが頭をよぎる。

瑞樹の腕を跳ね飛ばした、あのビーム。


あんな攻撃、今まで見たことがない。

瑞樹が受けなければ、全滅していた可能性すらあった。


何故、あんなビームを出すような敵が?

初撃から一撃死の攻撃。


…。


そういえば、最後のビームを受けたのはあの男でした…。

つまり、あのビームはあの男を狙ったもの?


このボスが私たちに対してヘイトを向けないのも、あの男を警戒している?


その時、右耳につけているインカムから連絡が入る。紬からだ。


「お嬢、あの男がそちらに。警戒を」

「いいえ、都合がいいです。」


私は目の前のボスがわずかに視線を変えたのに気づいた。









俺は水の音を鳴らしながら、ボス部屋を走っていた。


またあのビームが飛んでくるかもしれず、先ほどの盾の子が巻き添えになるかもしれないので横に回り込みながらボスへと向かう。



ボスに一定距離まで近づくと、ビームを放ってから沈黙していたボスが動き出した。


体をこちらに向け、さらに片腕の砲塔も向ける。

まるでロックオンしたぞと言わんばかりに眼が光ったのがわかる。


そして砲塔の先が光り、収束していく。


くる!


ビームが来るのに合わせて、俺はさらに加速する。


そしてビームがマシンガンのように放たれた。

マシンガンビームの一撃は先ほどの一撃と比べるとはるかに小さい。

だが、俺をハチの巣にせんばかりに無数に来る。


「マシンガンタイプとかあるのかよ!」


水辺を駆けながら俺は迫るマシンガンビームを加速し、なおかつジグザグによけていく。

訓練の成果が早速出た。


当たらなかったビームは水面や周囲にある岩に接触すると爆発し、俺の周囲ではひたすら爆音が鳴り響いた。


「こええええ!!!!」


ひたすらマシンガンを撃たれ続け、俺は走り続ける。


「ちくしょう! 近づけねえ!」

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