第29話


「お馬鹿! 遠距離持ち相手にそんなに高く飛ぶなんて!」


え?


遠くであの変態女の叫び声が聞こえた。


そしてボスは俺に砲を向ける。


砲の中央に光が一瞬で収束していき、マシンガンビームが放たれた。


やべぇ! 空中だから避けきれない!


慌てて盾『鍋の蓋』を起動させ、正面に出す。

正面から受けないように、そらすように盾を構える。


今更だがこんな『鍋の蓋』で役に立つのか!?

だけど、これしかない!


魔力を一層込める。

そしてビームがやってくる。


1発、2発、3発とビームをそらしていく。


「いけるか!」


と、調子に乗ると表層の魔力層が抜けた。


「やっぱむりぃ!?」


『鍋の蓋』にバキッとヒビどころではない音がする。


俺の魔力をもってしても、『鍋の蓋』ではやっぱ無理か!


そして次の3発で『鍋の蓋』が粉々に砕けた。


ぐ…。


『鍋の蓋』の追悼をささげる間もなく、マシンガンビームが次々とやってくる。


やべぇ、食らう!

くそっ! 緊急回避!


俺の体の一部分をスライムに擬態させる。

そしてマシンガンビームの通り道の穴をあけた。


ビームが穴を通っていく。後方の空で爆発する音がする。


散弾気味に体のあちこちに向けてやってくるビームを、体をグニャグニャと変化させてよけ続ける。


だが、俺の擬態変化速度がマシンガンについていけなくなる。


やっば、回避しきれない!

こんなことならスライム変化も練習しておけばよかった!


やがてビームの一撃が俺の体に当たり、爆発し、体が強く吹き飛んだ。

宙に飛ばされる。


だがその陰で残りのマシンガンビームの軌道からそれた。


「いってぇ!」


HPを確認すると500ほど削れていた。


20発食らえば死ぬやん!

ワンマガで落とせるってか!


やばい。すぐに次が来る! 姿勢を戻さなくては!



警戒していると、追撃が来なかった。


ボスを見ると、彼女たちが攻撃を仕掛けていた。













「お馬鹿! 遠距離持ち相手にそんな高く飛ぶなんて!」


あまりに高く跳躍した変態男に思わず悲鳴ような声を上げた。


モンスター戦の基礎でしょう!


あれはもう…。

その後の光景がすぐに思い浮かんだ。




しかし先ほどあの男がボスの足を一本切ったのが見えた。

信じられないことに包丁で切っていたように見える。


おそらく包丁は見間違いでしょうが…。

火力は私たちより上?

最前線組の私たちより?


あれこれ考えていると、ボスが次の行動に出た。

予想通りに馬鹿みたいに高く宙に浮いたあの変態男に向けてマシンガンビームを撃った。


今ボスは別の敵に攻撃中。

ヘイトはこちらに向いていない。


攻撃のチャンスが来ないと思っていたらすぐにきた。


「準備完了」


エマから連絡が来る。


「一気に畳みかけます! エマ、最大火力を」

「了解」


エマの詠唱が流れる。


「そなたは天界の雷神、巨人を屠りし戦神」


遥と莉奈は二人で湖を疾走する。

ボスは先ほどと同じように、彼女たちを無視した。


「試練に赴く我らが力を請わん」


「ボスのヘイトは一人にしか向かない。都合がいい」


莉奈の大振りが関節に入り、その後私の居合い切りが入る。

コツをつかんだのか数撃でひびが入る、


「敵なるは罪深き獣」


ボスのヘイトが自分達に向く。

両手の砲塔から伸ばしたサーベルによる薙ぎ払い。


今度は莉奈にビームサーベルの攻撃が向かい、私が足を落とす。


足の数は残り5本。

だがボスは器用に立っている。


「今、槌の音が裁きの始まりを告げる」


想定通りにきたビームサーベルを軽い跳躍で回避し、離脱する。


「今!」


「ミョルニル!」


遠雷が響き、一瞬で落雷の音へと変わる。

バリバリと空気を引き裂く音が体に響く。


最初に撃った一撃よりも太い雷が蜘蛛ボスに直撃し、体を硬直させた。


その後、ボスが膝をつく。

負傷しているのが見て取れる。


切れた関節からダメージが通ったようだ。

装甲さえ何とかすれば、中身は弱いのかもしれない。


だが一撃では落とせない。

ボスのヘイトが初めてエマに向かった。


「紬!」

「離脱中」


砲塔がチャージされる。


「莉奈、砲塔を!」

「あいよ!」


莉奈がハンマーを取り出して下からふるう。

私も同じように砲塔に攻撃する。


砲塔が持ち上がる。

だがわずかに持ち上がっただけ。すぐに修正される。


そしてビームが発射される。


マシンガンとは比べ物にならない太い一撃。単発砲撃。

だが最初の瑞樹への一撃と比べると小さい。


紬はエマを抱え湖と岩の空間を疾走し、ビーム直撃を避ける。

だが、ビームは岩に着弾すると、マシンガンとは比べ物にならない爆風を生み出した。


その爆風は、紬とエマの体を浮かし、空高く宙に流すのに十分だった。


「カハッ」「キャアア」


紬とエマの叫び声が聞こえた。


そしてボスの砲台のチャージが始まる。

次弾が放たれようとする。


「く」

「オラッ」


もう一度私と莉奈で攻撃を防ごうとするが、先ほどと同じ。

砲撃を止めるすべがない。


このままでは、エマたちが。


「『ミンチ』を喰らえ!!!!!」


微動だにしなかった砲塔が急にはるか上に持ち上がる。

先ほどの変態男が下からハンマーをふるっていた。


あれは家庭用のハンマー?


砲塔にひびが入る。


ビームが上空に放たれ爆発した。振動が空気を伝わる。


「ああ! 俺の『ミンチ』が!」


男が悠長に砕けたハンマーの死骸を嘆いている間、ボスは即座に離脱した。

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