第19話


しばらく、モンスターを包丁『貝切』で試し切りをしながら水中を進んだ。


やがて湖の上に出る。


目の前には大きな島があり、その手前に砂浜が見えた。砂浜には平べったい岩がところどころにある。

湖に砂浜ってあるんだなぁ。島の中央部、砂浜の奥に森が見える。


先ほどまでいた水の中は塩水ではなかったから、どちらかというと海ではなく湖だろう。


「ダンジョン自体が巨大な湖で、その中央に島がある感じか。」


なんか普通の湖と逆だな。 湖の場合は陸地の中にある巨大な池なわけだし。

まぁ、ダンジョンの不思議はあまり深く考察しても仕方ないが。



「湖の中にある島か。水滸伝みたく、一年後に備えてここで108人仲間集めてみるか?」


そうすればそいつらがこの問題を解決してくれるはず。


いやあれは湖の中ではなくほとりか。

それに108人も集めるのは無理だ。友達そんないないし。


「いやけど、擬態を使って一人108人なら…」


ワンマンアーミーならぬワンマン水滸伝。


…むなしい。


やめとこう。一人水滸伝とかむなしい。




湖からでて砂浜に入ると、少し空気が変わった感覚がする。

なんだろう? 何かいるのか?


少し待っても何もなかった。

ひょっとしたら、これが階層の境目だったのかもしれない。


「そういえば、ダンジョン見学では2層目には行っていなかったな」


見学会だからか。

階層が変わればモンスターの種類も変わるのかね。


そのまま砂浜をザクザクと歩いていると、足がずぼっと穴にハマった。


「ん?」


そして、足が何者かにかまれたのがわかった。


足がぐいっと高く持ち上げられた。相対的に俺の頭は下に落ちる。


ぶへぇ。


口の中に砂が入る。

おれ、ダンジョン関係になると土飲んでばっかりじゃねぇ?


砂の下から出てきたのは黒くごつごつした体を持ったワームだ。

その口に見える牙は岩くらいなら砕きそうだ。


俺の足はこいつにかまれており、俺の足を高々と持ち上げていた。

そしてワームはその体を勢い良く揺らし、右へ左へと俺の体を砂浜にたたきつける。


たたきつけが何度も行われる。

だがダメージがないからかどこかアトラクションっぽくある。


「いいかげんに、しろ!」


アトラクションに飽きた俺は包丁『貝切』を用いて、ワームを切った。

ワームは胴を上下に真っ二つに切られて魔石になっていく。

ここの遊園地の評価は10点だ。出直してきなさい。


「初見殺しが過ぎるだろ。ここに初めて来た奴、このワームに殺されてたんじゃないのか、多分」


絶対にはまるよな、これ。


少し歩いただけでハマるということは、この砂浜はワームだらけということになる。

俺は目の前の砂浜が地雷原に見えてきた。


だが歩かねばならない。

まぁ、ダメージがないからそれほどの恐怖はないけど。


そして、また足が砂浜にはまる。


今度はその足を素早く引き抜く。

すると足を引き抜いた穴にワームの口が通っていった。


見えたワームの体を包丁『貝切』で土ごと切りさく。

ワームの体が塵のようになっていくのが見えた。



「これが俗にいう攻略法か」


分かっていれば、簡単に倒せるな。


ダンジョンは攻略法がある場合、それがダイバーには有料無料で公開されているらしい。

その情報があれば簡単にクリアが出来たりする。


一般には公開されていない。不法侵入を防ぐためだ。

とはいえ、ダイバーの知り合いがいれば知れてしまうので、あまり意味のない対策ではある。



その後、砂浜を歩き何度も穴に足を入れて、足に向かって噛みつこうとするワームを切った。

再び塵になっていく。


「なんか釣りみたいだな。もしくはモグラ叩き」


ん? モグラたたき?


俺はビニール袋から『日曜大工のハンマー』を取り出した。


「こちらも試しておかないとな」


そして別の穴を探す。

よく見ると、砂浜の穴がありそうな場所はわかった。

若干砂がうっすらと渦状にへこんでいる場所だ。よく見ないとわからない。


とりあえず足を入れて、そしてすぐに足を引き抜く。

穴にはワームが通るので、きた場所の上の砂に向かって『中級槌術』を使ってハンマーを振り下ろす。


ドゴォッ!!!


砂浜に半径1mくらいのへこみができる。


「ゴビュギュゥ」


今まで声なんて聞こえてこなかったが、今回は胴体をへこましたから声らしきものが聞こえてきた。

そして砂の中から塵のようなものが出てくる。


「結構つえーな」


ただの『日曜大工のハンマー』で1mもへこみを作るとは、恐ろしい…。


そういえば、これ全力で振ったらどうなるんだろう。

試してみるか。


俺はその場で踏ん張り、魔力をため、それを『中級槌術』に流し、ハンマーをふるう。

光り輝くハンマーが振り下ろされた。


ボガァッッッッッッ!!!!!!!!!!!


ハンマーが砂に触れた瞬間、その衝撃が半径10mくらいに広がった。

ふるったのは片手で持てる『日曜大工のハンマー』のハンマーだが、巨大なハンマーが振るわれたように幻視した。

そしてその範囲の砂浜が急に1、2mほどへこみ、一方でふちでは砂が猛烈舞い上がる。


その舞い上がった砂がパラパラと落ちてくる。


「お、おおぅ。やべえなこれ」


半径10m以内にいたワームが死んだのか、砂の中から塵がなん箇所かから漏れていた。


『日曜大工のハンマー』、お前の名前は『ミンチ』で決定だ。

ちょっと違うけどインパクトがあるからいい。

中々いいスキルを手に入れたな。あのダイバー達に感謝だ。


「あ、魔石」


俺の目の前にはへこまされた砂しか見えなかった。


…2級くらいならいっか。売り先もないし。

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