第20話

奥へ進むためにワームを倒すのが面倒になり、いそうな場所をよけながら歩いていると、正面に岩があった。

岩は結構巨大で、車のような大きさと形をしていた。それらが砂浜にまばらにある。


砂浜にある岩にゆっくりと近づいてそこに手を当てながら進む。

だが、手を当てるとその岩が動いた。


「ん?」


岩は手を当てた衝撃に驚いたかのように波打ち、そしてカタカタカタカタと音を立てながら前後が丸く収縮していく。

平らな岩が丸になった。


そして巨大なタイヤのように回転し、砂浜を走り出す。


「こいつ、ダンゴムシか!?」


名前はわからないが、近いのはダンゴムシだろう。

ダンゴムシはこんな風にローリングサンダーなんてしないけど。


そいつは砂を飛ばしながら走って加速し、速度が十分となると、円を描くように反転して俺の方へと向かってきた。


踏みつぶすか弾き飛ばす気だろう。

俺はビニール袋から『鍋の蓋』を取り出す。そして『中級盾術』を起動した。


起動すると『鍋の蓋』から薄い膜のようなものが飛び出し、盾から俺側に半球状に伸びる。


そしてそこにダンゴムシモンスターがぶつかると、甲高い音がした。が、それだけだ。

予想していた衝撃が全然流れなかった。


「『盾術』で防げば衝撃も流せるのか。ん? それ以外もできる?」


脳内での説明だと別のこともできるらしい。


すると、もう一度ダンゴムシがやってきたので、今度はそれを弾き飛ばした。


「衝撃をそのまま跳ね返せるのか。カウンターも可能だと?」


『中級盾術』スキルの説明が頭に浮かぶ。


上手くいけば相手の攻撃をそのままはじき返すことができるらしい。矢なんかを跳ね返したりとか。

また相手の衝撃を受け流して相手の態勢を崩すパリィのようなことも可能のようだ。


「盾術便利だなぁ」


俺はその後も何度かこちらに向かってくるダンゴムシに対して盾術の実験をしながら、このダンジョンのことを考えた。



…このダンジョン殺意高すぎじゃないか?

これ、地面の中にはワームがいてダイバーがハマるのを狙い、それを回避してもダンゴムシが襲ってきて、そのダンゴムシからいたずらに逃げたらワームの罠にはまるんだろう?


普通に死ねるだろう。

レベル99だから逆にわかりづらいけど、こいつらの攻撃って弱いステータスでも耐えられるレベルの攻撃力なのかな?


ダンジョンだとこの難易度は普通、なのかな。ほかの2級もこれくらいなんだろか。

じゃあそれ以上の級数のダンジョンは?


…ダイバーの先人たち、めっちゃ頑張ったんだな。 


「まぁ、とりあえず」


俺はもう一度やってきたダンゴムシをハンマー『ミンチ』で吹っ飛ばした。


ホームラン!


空中で塵になっていくのが見えた。





その後は砂浜の奥に見える森に入っていくことにした。

森は密林ではなく、どちらかというと疎林だ。人は結構簡単に歩ける。

足元には草がそこそこ生い茂っているから、ズボンがめちゃくちゃ汚れそうだ。


中に入るとまた空気が変わった。

ここが三層なのかな?


ここは何が出るんだろう。

ああ、そうだ。ちょっと走り回る訓練しよう。


走り回る訓練というと子供っぽいが、街中で全力で走るなんてしないんだよな。

ひとまず、疎林ぐらいはジグザグによけながら走れるくらいになっていこう。


いざ襲われたとしても、ひとまずは逃げれるように。




しばらくただ高速で走ったり、木をよけたり、蹴って飛んだり、回転しながら走っていると、森の中の住人が見えた。


ゴブリンだ。


「お! 定番のダンジョンモンスターじゃないか!」


そのゴブリンの集団が森の奥から出てきたが、俺が通り過ぎるのを呆然と見ていた。

結構な速度で走っていたので、驚いて何もできなかったらしい。

ぽかんと口を開けているのが見えた。


ゴブリンは有名だから俺も見たことがある。実際の映像で。

結構ネット上で動画が流れてるんだよな。

確かダイバーがわざと襲われる動画だったはず。


ダイバーの女性が悲鳴を上げながら、往復ビンタでパンパンと次から次へと襲ってくるゴブリンの首を弾き飛ばすとかいうやつだ。

モンスターにグロ規制はないらしい。



「しかし、ゴブリンか」


魔法の訓練とかあいつらでしてみるか? ちょうどいいよな。


それに前回のダイバーたちのとの戦闘を思い出すと、回避訓練も行いたい。

これからのことを考えると、少なくともあいつらぐらいの攻撃は全部避けれないとダメなんじゃない?



「ちょっと試してみるか」


よし。いこう。ゴブリン軍曹による訓練キャンプだ。

ハートの軍曹と違ってこちらはイージーモード。


早速ゴブリン達のところに行くと、先頭にいた奴がドタドタと向かってきて、剣を振りかざしてきた。


「な!」


俺はそのゴブリンをみてショックを受けた。包丁『貝切』を強く握りしめる。


「こいつ! ゴブリンのくせに俺より立派な剣をもってやがる!」


思わず怒りで包丁『貝切』でゴブリンをぶった切ってしまった。

そのついでに後ろにいた4人のゴブリンも切れる。

そして周囲にあった木が二本ほど倒れていく。


バサバサと木が倒れる音が響く。


ああ、しまった。やっちまった。

ゴブリン軍曹に反抗し殺してしまった。軍法会議ものだ。銃殺刑だ。


「いやいや、違う違う。そうじゃない。俺は訓練をしたいんだ」


ちなみに、ゴブリン達から剣はドロップしなかった。畜生。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る