第6話

さぁ、やってまいりました。【埼玉宝登山ダンジョン】


埼玉県にある宝登山に唐突にできたぽっかりとあいた洞窟、そこが【埼玉宝登山ダンジョン】だ。


このダンジョンはランクは第1級と最低であり、第1級は初心者ダンジョンともいわれている。


今日はそのダンジョンの見学会にきていた。



第1級は元々それほど脅威ではなく、安全性の確保もしやすい。


よってこの【埼玉宝登山ダンジョン】は市民にダンジョンとはどういうものかという理解を広めるためにステータスのない人にも開放されているのだ。



見学には事前の申し込みが必要なのだが、俺は無理を言って入れさせてもらった。


別に人数はいつも定員よりも少ないみたいだから、当日でもちょっと頼めば可能だった。



ただ死んでも文句言わないという死亡同意書は書かされた。


ダンジョンのランク、ステータスの有無に関係なしに、ダンジョンに入る際は皆書く決まりになっているんだと。


第1級だとこけて頭をぶつけるぐらいしか死亡することはないらしいが。




本当は本丸であるスカイツリーダンジョンに早速行こうと思っていたのだが、思ったよりも警備が物々しすぎて入るのをためらった。


元々あそこは最重要警戒ダンジョンに指定されていたために、周囲が要塞みたく固められていたんだよな。



そこに先日の俺にはまったくの無関係な円環事件だ。

周辺にさらに警備が敷かれていて、通りかかる人すべてににらみを利かせていた。



擬態があるからいけないことはないだろうけれど、さすがにダンジョン初心者には厳しいかなと。



ということで、こっちの初心者ダンジョンだ。初心者はおとなしく初心者用に行くことにした。


ダンジョンに入ったときの反応とかもまずこちらで試しておきたい。

ひょっとしたら、あの称号のせいで何かあるかもしれない。






「皆さん、集合してください。」


ダンジョン前に作られた協会支部のホールには10人くらいの見学者が集まっていた。


大体が若くて高校生くらいの子が多いな。親同伴だが小学生くらいの子もいる。


だが俺の格好も擬態で大学生くらいに合わせてあるから問題ない。

ちょっと若返ったくらいだが。


ホールの前の方には今回のダンジョン案内人と護衛達がそろっていた。



「では今から、ダンジョンに潜入します。皆さんは事前に言われた通り、お近くの護衛のダイバーから絶対に離れないようにしてください。」


「はい!」


見学者の小学生が元気よく返事した。めっちゃ楽しみって感じの顔だ。

それに腰に剣をさしてる。子供のコスプレか?


しかし初めてのダンジョン、子供じゃない俺でもわくわくするね。





俺たちはダンジョン案内人に連れてかれてホールを出て、ダンジョンの入り口へと向かった。


ダンジョンの入り口である洞窟は周囲をコンクリートの壁に囲まれていて、壁の中央に入るためのゲートがあった。


一応壁に囲まれてはいるが、これくらいなら俺なら余裕で飛び越えれそうだな。


正直、普通の人でもちょっと道具を使えば超えれそうな感じだ。


これなら深夜に隠れて入り込むこともできるだろう。

スカイツリーダンジョンと比べて凄い差だな。向こうが城壁ならこっちは村の柵だ。



「なんていうか、壁で囲ってあるだけなんですね。」


「まぁ、第1級のダンジョンはスタンピード現象が発生しても大して被害はないですからね。あの壁を越えられるモンスターもいないですし。万が一抜けだしたモンスターを探すのが大変といったくらいですかね。」


近くの護衛に聞いてみるとこんな答えが返ってきた。

さすが、初心者ダンジョン。俺の事情に優しくていいね。


ゲートの中に入ると洞窟が見えて、その洞窟の奥にダンジョンの入り口が見えた。


入り口は虹色の膜ができていて、はっきりとそこがダンジョンであるとわかるようになっていた。


それになんていうか…引っ張られている?

物理的には引っ張られてはいないが、心が引っ張られている感覚がする。なんだろう?


これは称号のせいか? それともステータスが発生したダイバーだから?

わからんな。


そしてその入り口の前に何やら改札口のような機械が見える。

洞窟の中の改札口。存在がめっちゃ浮いてるな。


「奥に見えるあの虹色の膜がダンジョンの入り口です。色も特徴的ですが、何よりもあの膜はダイバーなら見た時に惹かれる感覚がすることが大きな特徴でしょう。」


どうやら惹かれる原因は称号ではなくダイバーの方だったらしい。


「うん! なんか変な感覚がする!」


小学生が大きな声で言っている。あの子もダイバーなのか。


本格的に入る前の見学とかできたのかな? そうみると、あの剣が本物のように見えてきた。



「そしてこれがダンジョンへの潜入を管理するゲートです。ダンジョンに入る場合、ここにダイバー免許証をかざす必要があります。もし翳さずにはいると…」


そういって案内人が入るとブザーが鳴った。


「こんな風に音が鳴ります。ここは第1級ですし、見学用として整備されているダンジョンですのでこれくらいですが、上級になればなるほど厳重になります。」


へー。


「なんで厳重になるの?」


小学生が聞く。

「身に合わないダンジョンに入ると怪我をするからね。だからそれを防ぐために厳重になっているんだよ」


「「へー」」


俺も思わず言った。 2へーだな。200円差し上げよう。



「今回は私のガイド免許証をかざすので、皆さんは一緒に入れますよ。」


みんながくぐると見学者はダンジョンの膜の前で待った。

…このゲートって意味あるんかな? 正直普通に横から抜け出せそうなんだが…。




見学者が揃うと再び案内人が声をかける。



「では入りましょう。大丈夫ですよ。入ったら戻れないなんてことはないです。ははは」


そういってダンジョンの入り口に先に護衛が何人か潜入していき、見学者が続いていく。


虹色の膜の前で一度みんな止まるが、意を決したように入っていく。


そして俺も入っていった。

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