第5話
深夜の繁華街の路地裏は暗く、どこか通り魔が出そうな雰囲気を持っていた。
俺がそんな場所をビクビクしながら歩いていると、すぐにそいつらがやってきた。
路地裏の奥からザ・チンピラみたいな風貌の3人組が下品な話で笑いながら歩いている。
だが彼らは俺を見かけると、一度お互いに向かい頷いて、ニヤニヤしながら無造作に近づいてくる。
「オジサン、オジサン。ちょっといいかい?」
「いいよね? 当然いいよね? ちょっとお金貸してくれない?」
「今俺らお金なくてさー。ごめんね。ほら若い人を助けると思ってさー」
と言って無遠慮に肩を組んだり、通り道を通せんぼして周囲をかこったりする。
彼らはまだ殴ってこない。
もう一押しだ。俺は弱そうな振りをする。
「な、何ですか。警察呼びますよ」
「ははは。呼べばいいじゃん」
「なぁ?」
「ああ、面白そうだ」
そういってそいつらの一人が俺の腹を殴ってきた。
「はい! 暴力確認! 正当防衛!」
当然レベル99には効かない。俺のステータスはミリも傷ついていない。
「は?」
急に叫びだした俺に対して驚いた彼らの体を軽くなでる。
若干魔力を意識しながら。
すると、相手の体が面白いように吹っ飛んだ。
「グハァ!」
「な! てm、デュア!」
「ビュルン!」
3人とも勢いよく吹っ飛んで壁にぶつかり、地面にどさりと落ちた
…大丈夫だよな、死んでないよな。
3人見ると皆気絶しているだけで怪我はしていない。
ふぅ。うまくいった。
仕事で一度やらかした経験がよかったな。怪我無くうまく抑えられている。
仕事仲間との距離感マックスだったことには意味があったんや。
それにしても運がよかった。
まさか路地裏歩いてすぐに来るとは。ここ別にこんな治安悪くないやろ。
…いやこれ運がいいって言えるか? むしろ悪いのでは?
普通にチンピラに絡まれるのは運が悪いだろう。
レベル99になっていきなりあんなスカイツリーに円環とか訳の分からないものも発生しているし。
ステータスの運だけは意味が逆なのかもしれない。
そういえば、俺がひいたスライムカオスエクスペリエンスとかいうやつも車に引かれて死んでるし…。
ほんとにこの運は逆かも。悪運999? いやそれだといい意味か。
いずれにせよ気を付けよう。
「さーてと、収穫と行きますか」
俺はバッグからバリカンを取り出した。
そしておもむろに絡んできたやつらの髪を剃っていく。
いやー君たち、これここまで伸ばすの大変だっただろうねぇ。
きれいに染めてさぁ、これいい感じに染めるのって結構大変なんだってねぇ。
そう思いながらも俺は無慈悲に剃っていく。
バサリバサリと髪が落ちていく。
ふんふーん。
バリカンのウィーンという音と俺の鼻歌が路地裏でこだました。
「ふふふ、髪の毛ガッポガッポ」
俺のその様子は傍から見れば男の髪を得て不気味に笑う変質者だったろう。ここは2丁目だったか。
手のひらの上に剃った髪の毛をのせて、手のひらの部分をスライムに変えて吸収していく。
次から次へと髪を吸収していき、ステータスを覗くと情報取得率は100%までいった。
「よしよし、情報取得率が一気に100%まで行ったぞ。これで擬態も100%可能だ。楽だなこれ。」
とりあえず擬態候補の予備も欲しいので、もう二人の髪も剃っておく。
「三人お揃いなら笑い話にできるだろう。うん。」
どんな不幸も笑い話にできるならそいつは最強だ。
俺は若い人に強くなってもらいたい。
そうすれば今日のことも明日への希望となるさ。
…というか、俺も若いんだけど。
最初、オジサンオジサンって話しかけられたけど、俺もまだ若いんだが?
くそう、こいつらぐらいだと数歳差でオジサンか。
まあいい。髪は剃ったのだから。俺の悔しさの仇はとった。
早速、ちょっと擬態してみよう。
50%くらいまでやってみるか。
体がゼリー状に一度ぶれると、すぐに先ほど絡んできた人物になった。
「おお、いいね。そっくり。というかまんまじゃないか」
持ってきた手鏡で見て、からんできた人物の顔を覗いても見分けがつかない。髪以外は。
これならいけるわ。
…だが、これからやることを考えるともう少し変身相手のストックが欲しいかも。
もしこれから派手な行動をしてしまった場合、『擬態』使いってのはすぐにばれるだろうし…。
今のうちストックためとくか? ためとこう!
俺は今変身した奴の姿で街中を文字通り飛び回った。
ステータスに物を言わせて移動しまくり、夜の間に数県またいでストック数は100を超えた。
「擬態対象もガッポガッポやな」
翌日、とあるニュースが流れた。
昨日未明、関東の繁華街で人が次々に丸坊主にされるという連続不審丸坊主事件が発生。
いずれの被害者も夜の繁華街を歩いていたところを急に襲われたと証言している。
昨日朝に発生したスカイツリーの円環が大ニュースになったことから、ネット上ではその翼が少しずつ黒く染まっていく様子と関連付けて、あの円環を黒くする代償として髪が奪われたといううわさが広まっている。
丸坊主にされた被害者の一人はショックのあまり「ガッポガッポ」と何度も呟いている。
友人同士で泣きながら丸坊主になった頭を抱いている姿も見られた。
ダンジョン神教幹部の橋本氏は、
「彼らの髪はダンジョン神に捧げられたものとして認識している。彼らはステータスは得られなかったが、神の意志によって選ばれた幸福な人である。すぐに最寄りのダンジョン神教支部に来て、ダンジョン神の祝福を受けてほしい」
と述べている。ちなみに彼も丸坊主だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。