第7話


ダンジョンの膜をくぐるとそこは洞窟の中だった。洞窟から洞窟へ。

だが先ほどの洞窟とは土の色が違った。あちらは茶色か黒。こちらは青っぽいな。


ここがダンジョンか。

…思ったより普通だな。ただ、魔力が満ちているのが何となくわかる。


そして中に入ってすぐは開けた広場になっていて、その中央にきれいな宝玉が飾られた台座が鎮座していた。

ダンジョンの案内人は皆が来たのを確認すると、その台座の方に移動した。


「これはステータス宝珠です。これにステータスがある人が触れるとステータスが表示されます。試しに私が触れてみましょう」


すると、宝玉から光が出され、中空に彼のステータスが表示された。


田中聡


レベル:41


HP  :3590/3590


MP  :340/340


力  :378

速力 :330

体力 :321

魔力 :298

運  :309


…レベル41もある。一線級は別として、大体のダイバーが30~50くらいだったよな。ちょっと高い方か?

そんな人が初心者ダンジョンの案内人をやっているってことは案内人って高給取りなの?

ふーむ。


「僕もステータスあるよ!」


「うん。そうだね。君はダイバー準1級だったね。触ってみる?」


「うん!」


小学生は案内人の男に引き上げられて宝玉に触れるとステータスが表示された。


天道勇人

レベル:1

HP  :99/99


MP  :10/10


力  :12

速力 :9

体力 :9

魔力 :10

運  :11


所持スキル:初級剣術



勇人君か。なんか姿も相まって学校じゃ勇者とか呼ばれてそう。

レベルは1だ。当然か。お、《初級剣術》のスキルもある。

先天的に持ってるってことか。すげーな。


あれ、さっきの案内人はスキル表示されなかったな。隠せるのか。


「このステータスの宝珠の中に濃い青の水と薄い青の水に分かれているのが見えると思います。この濃い青の部分が何分目まで行っているのか。 これでダンジョンの級数がわかります」


文字とかでは書かれてないんだな。


「ちなみにこれを外そうとして触れると強制的に外に飛ばされます。しばらく中に入れません。触ってもいいですが気を付けてください」


お持ち帰りは出来ないらしい。残念。

お土産にステータス宝珠と台座のお菓子とか作れば売れるんじゃないかな?


見学者の何人かがペタペタと宝珠を触る。感触を確かめたり、写真を撮ったりしている人がいた。


当然俺は触らないし、近づかない。





ひとしきりすむと、案内人が声かけた。


「では、ダンジョンの中に入っていきましょう」


みんなでぞろぞろとダンジョンの洞窟の奥へと歩いていく。


ダンジョンの空気はひんやりとしているが、どこか温かさを感じる。

肌で感じるものではなくて…。どちらかというと心? 魔力が原因だろうか。


しばらく歩くと、何かが歩いてくる音が奥から聞こえてきた。



奥から来たのは、トテトテと可愛らしい音を鳴らしながら歩くモンスターだ。


「ご覧ください、あれがモンスターの中で最弱の【ポックル】です」


あれが。


なんていうか大きくしたどんぐりに眼口と手足をつけただけのようなモンスターだ。

大きさは膝くらいまでの大きさか?


正直子供が作りそうなモンスターだ。大人が作ったなら公表の前にゴミ箱行きだろう。



これが初めてのモンスターかぁ。正直モンスターという名前を返却した方がよさそうなくらいめっちゃ弱そう。

つーかモンスターじゃなくてただのどんぐりだろあれ。


「弱そう、って皆さん思ったでしょう? 実際ポックルはスキルがあれば訓練も大してせずに、そこの僕でも倒せます」


「倒してもいい?」


倒せるといわれた小学生の勇人君は楽しみ半分不安半分みたいな声で言った。


「ふーむ。いいよ。スキルの発動のさせ方はわかる?」


「うん!」


「じゃあこちらにきて」


案内人がポックルと勇人君の位置を整える。

俺たち見学者はその様子を離れたところから見ていた。


勇人君はポックルの前に立つと、腰の剣を大仰に抜いて構えた。

そして一度深呼吸をして意識を集中させるそぶりをすると剣がうっすらと光った。


「あるてみっとすとらっしゅ!」


名前つっよ。なんかのアニメの技なんかな。

しかし、そういいながら振った剣はスッパリとポックルを一刀両断した。

ポックルの顔は切られたことに気づいてなさそうなくらい間抜けな表情をしていた。


「おー」


思わず周囲にいた皆が拍手をした。

切られたポックルはしばらくすると霧のようになっていき、そこには小さな石が残された。


「さすがだ! いいね!」

「やった! やった!」

「すごいね。ゆーくん」


勇人君は興奮冷めやらぬ感じでそういう。隣にいる母親がほめていた。


「はいこれ、君の戦利品だ。」


そういって案内人は小さな石を拾い上げて勇人君に渡した。


「これが魔石?」

「そうだよ」


渡された魔石は本当に小さくて小指の爪の大きさもなかった。

最弱のモンスターだとそれくらいなんだな。


勇人君はその魔石を大事そうに握った。




しばらくすると、もう一体別のポックルがやってきた。


すると案内人は背負っていたリュックからハンマーを取り出してこちらを見た。


「どうです? 今度は皆さんも叩いてみませんか?」


「けど、倒せないのでは?」


女子高生がそういう。そう、ステータスを持っていない人間には倒せないのが常識だ。


「ええ、ほとんど不可能です。ですがせっかくの見学会ですからね。」


そういってハンマーを女子高生に差し出した。

女子高生はちょっとおっかなびっくりな表情をしている。


「大丈夫ですよ。こいつら攻撃力はほぼ0なんで攻撃されても痛くありません」


言われた女子高生はハンマーを握ってポックルへと殴りつけた。

だが、殴られたポックルはきょとんとした顔をして女子高生を見ていた。


今、よく見るとポックルとその間には数ミリ程度の空間があったな。

あれが…。


「固いでしょう? これがモンスターを銃などで倒せない所以です」


「M.E.フィールドっていうんだよ!」


勇人君がいう。


「そうです。そのM.E.フィールドがモンスターの周囲を覆っており、それを貫通しなければダメージが通りません。貫通するためにはステータス、もっというと魔力が必要になります」


案内人はそう説明する。


見学者はそれぞれワクワクした表情でポックルをハンマーでたたいていく。

叩かれたポックルは相変わらずきょとんとしている。


俺も叩けるのかな、と思っていると案内人は別のポックルを目の前に差し出した。


「持ってみますか?」


「え?」


「大丈夫ですよ。見ての通りおとなしいので。それに第1級帯のモンスターはチュートリアルみたいなものなんです。本格的にモンスターが敵として現れるのは第2級の深層か第3級の浅層あたりですね。」


「へー」


チュートリアルなのか。親切にそういうのもあるんだな。


じゃあ持ってみるかと、差し出されたポックルを持ってみる。

その時、俺は油断していた。初めて間近に見たモンスターに興奮していたのだろう。

手から魔力が漏れていた。


「ボグォ!」


持つと同時にポックルは到底その口から出たような声じゃないような音を出し、一瞬にしてつぶれ消滅していった。


「え?」


そして手のひらから消えていき、残されたのは小さな魔石、ではなく金色に輝く小さなどんぐりだった。

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