第5話 頼り甲斐と帰郷

「……ここが、アイツの故郷か」


 それから2,3日歩いて、俺とシーフはヒーラーの故郷に辿り着いた。


 何のことはない、普通の村だった。


「そう……。ここが私が生れた……何の変哲もない村」


 シーフがそう村を見つめながらそう言った。


「……で、アイツの家はどこだ?」


「こっち。案内するから」


 そう言ってシーフの案内で俺は進んでいく。


 小さな子どもが走り、牛や羊が放牧されている……長閑な村だった。


「……この村で過ごしていた時は、冒険者になるなんて、思いもしなかったな」


「あぁ。冒険とは無縁な村だ。どうして、冒険者になったんだ?」


「……あはは。小さい頃は、絶対にこんな村を出て冒険者になるんだ、って意気込んでたから……結果としてはパーティからも追放されちゃったけど……」


 苦笑いしながら、シーフはそう言った。俺は足を止めて、村の光景を見る。


「……良い村だ。俺の故郷に似ている」


「え……。アンタの……?」


「あぁ。最も、とっくの昔に魔物に襲われてもう跡形もない。良かったな。この村は無事で」


 俺がそう言うと、シーフは悲しそうな顔をする。


「……帰るところがないから、アンタはいつもそんな悲しそうなの?」


「さぁな……村が襲われた時、俺は小さかった。何もできなかったよ。ただ、地下室に隠れていろと言われた。3日程、地下室に籠もっていたからな……。それから、地下室から出た時には……焼け跡しかなかった」


 シーフは完全に黙ってしまった。しかし、それから、少し思い詰めた顔で俺を見る。


「ほ、本当は! 冒険者になって信頼できる仲間を作って……この村に来てもらうつもりだったの! それで、この村のことをその人に守ってもらうために、私は……」


「……で、ここがお前の家か。ヒーラー」


 立ち止まった場所は、何の変哲もない家だった。


「え……。は……? な、何言ってるの? た、たしかにここはあの子の……ヒーラーの家だけど……」


「……变化のペンダント。使えば、自分の望む姿に变化できる……俺が元いたパーティが持っていたアイテムだったが、追放されたヒーラーが盗んでいったんだ」


 俺は剣に手をかける。


「ペンダント、持っているんだろ? せっかく完璧に別人に变化しているのに、演技が下手すぎるんだよ、お前」


 俺がそう言うと、シーフは観念したように、胸元に隠していたペンダントを取り出して見せる。


「……はぁ。やっぱり、私って、ダメダメだな」


 そう言うと同時に、シーフの姿が一瞬光り輝き……俺がよく知っている、両目の下に泣きぼくろのある、ヒーラーが現れた。


「……いつから気付いてたの?」


「最初から」


「はぁ!? 嘘つかないでよ! 流石に、そんな……」


「……おかしいだろ。友達とは言え、あんなにピンポイントに特徴を言い当てられるなんて。それに……」


「それに……?」


 俺は少し言うのを迷ったが、先を続ける。


「お前、いつも言っていただろ。自分には友達がいないんだ、って」


 俺がそう言うと、恥ずかしいのか悔しいのか、よくわからない表情でヒーラーは黙ってしまった。


「……まぁ、いい。とにかく、戻るぞ。パーティに」


「はぁ? アンタ、言ったでしょ! 私はあんなパーティに戻るなんて――」


「いやいや。当然、戻ってきてくれるんだよな?」


 と、聞き覚えのある嫌な声が聞こえてきた。俺とヒーラーは顔をそちらに向ける。


「いやぁ~……まったく。お前らほんと、無能だよなぁ。いつまでかかってんだよ。仕方ないから……こっちから来てやったぜ?」


 そう言って現れたのは……俺のパーティのリーダーである、勇者その人なのであった。

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