第4話 優柔不断と頼り甲斐
「……はぁ」
その夜は焚き火を囲んで野宿だった。
シーフは……先程から怯えきっている。
先程、盗賊の襲撃を受けたのだ。ここらへんの盗賊はレベルも低かったので、俺が少し威嚇で剣で切りつけてやると、情けない声をあげながら逃げていった。
が、問題はシーフの方だった。その光景を見て、完全に腰を抜かしてしまっていたのである。
「……お前、本当に冒険者か?」
俺は思わずシーフにたずねてしまった。シーフは少し怖がりながらも俺を見る。
「え……。い、いや……そ、そうだって、言っただろう……?」
「その怯え様はなんだ。盗賊の襲撃なんて冒険者をしていれば日常茶飯事だろう?」
「で、でも……怖くて……あ、アンタがいなかったら今頃……」
成り行きとはいえ、俺は、シーフを守ってしまうことになった。
しかし……、なるほど。コイツがパーティを追放されたのは、これが理由だろう。
冒険者としてあまりにも恐怖しすぎている……これでは使いものにならない。
「……まぁ、ヒーラーのアイツも、同じような感じだったな」
魔物が出てくるたびに、パーティに後方に身を隠して、怯えていた。それが勇者の怒りを買うこともしばしばあった。
「お前……故郷が一緒だからって、そこまでアイツと似なくてもいいんだぞ?」
「し、仕方ないでしょ! 怖いものは怖いんだから!」
逆ギレ気味にそう言った。俺はそれ以上は深掘りしないことにした。
「で、もうすぐ着くのか? お前の故郷には」
俺がそう言うと、シーフは少し考え込んだあとで、小さく頷く。
「……本当に、行くの?」
「当たり前だろ。そこにアイツがいるんだろ。アイツと会って、パーティに戻ってもらう」
「……あの子は、絶対に、戻らないと思うけど」
「それでも、戻ってもらう。戻るのを嫌がった場合は……無理矢理にでも連れて行く」
そう言うと、シーフは俺を責めるような目つきで俺を見る。
「……アンタは、剣で盗賊を斬りつける勇気はあるのに、どうして横暴な勇者と対峙する勇気はないんだよ」
俺はそれに何も応えない。ただ、焚き火を見つめながら黙っている。俺が黙っていると、諦めたようで、シーフは地面に横になった。
いずれにせよ、アイツの故郷にもうすぐ着く……そうすれば、俺もパーティに戻ることができるはず……。
だが……戻りたいのか? 俺は、本当に……。
「……ねぇ」
横になったと思っていたシーフが声をかけてくる。
「……なんだ」
「故郷に付いたら、私とアンタはお別れなわけ?」
「……まぁ、そうだろうな」
俺がそう言うと、シーフは起き上がって俺のことを見る。
「……少しの時間だけど、なんとなく、あの子がアンタを頼ろうとした気持ちはわかったよ」
「アイツが? ハッ。俺を頼ろうとするなんて、馬鹿だな。だから、追放されるんだよ」
「……うん。でも、私でも、アンタを頼ると思うよ」
それだけ言うと、今度こそ、シーフは眠りについたようだった。
「……俺なんて頼る価値もないんだよ」
俺はそうつぶやきながら、焚き火が爆ぜる音を聞いていたのだった。
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