第3話 自分の価値と優柔不断

 その日は宿屋に泊まっていた。


「……で、なんでアンタ、俺の部屋にいるんだ」


「え? いいじゃないか。金ももったいないし、同じ部屋で寝ようよ」


 ニヤニヤしながらシーフはそう言う。俺としては、こんな謎の女とそういうことは全くしたくないのだが……。


「お前なぁ……。いいから、自分の部屋に戻れよ」


「自分の部屋なんてないよ。この宿屋、この部屋しかないんだって」


 ……コイツに宿を取らせたのが完全に間違いだった。俺は呆れて何も言えなくなってしまった。


「……勝手にしろ。お前はベッドで寝ていいから。俺は椅子で寝る」


「えぇ~。アンタ、やっぱり愛想がないよ。そういう時は嘘でも一緒に寝てやるよ~、とか言うもんだって」


「別にお前に愛想よくするつもりはない。どうせ、お前の故郷までの付き合いだしな」


 そう言うと、少し拗ねたようにシーフは黙った。俺は都合がいいので、そのまま椅子で寝てしまおうと思った。


「……ねぇ。アンタ……このままどこかに逃げようって思わないの?」


 それからしばらくして、シーフが話しかけてきた。


「……言っただろう。俺にとってはあんなでも拾ってくれたパーティなんだ。戻る必要があるんだよ」


「あ、あんなパーティに……! 戻る意味なんてないよ!」


 急に苛立ったように、シーフがそう言った。俺は少し驚いてしまった。


「あ……。ご、ごめん……」


「……ハハッ。何も知らないお前にまであんなって言われるんじゃ、どうしようもない。俺の所属するパーティは」


「……アンタ。本当にパーティに戻れると思っているの?」


 と、シーフは少し意地悪そうに俺にそう聞いてきた。


「……どういう意味だ?」


「だって……アンタの話を聞いている限り、アンタを追跡役に任命した時点で、アンタのことをパーティから追い出す気満々じゃないか! アンタが戻る場所なんて、ないかもしれないんだよ!」


 ……なるほど。たしかにそうだ。いや、かなりそうなっている確率が高い。


 あの勇者なら、そういうことをやりかねないというか、やっている可能性が高い。


 おそらく、俺に戻る場所はないのかもしれない。


「……そうなった時は、その時だ」


「……アンタは、問題を先延ばしにしているだけだ。ヒーラーのあの子にも、同じことを言われたんじゃないのかい?」


 そう言われて俺は想い出す。実際、言われた。


 アイツが泣きながら、自分と一緒にこのパーティを抜けてほしい、と。


 俺は……それを無視した。そして、どうするかを先延ばしにしたのだ。


 俺はそれ以上は何も言わず、寝たふりをした。


「……ホントに、優柔不断なんだから」


 シーフのそんな言葉が聞こえた。そんなことをヒーラーにも言われたような……それを思い出しながら、俺はそのまま眠りについた。

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