第103話 春休み
―――学校が春休みに入る直前、今年も正吾君のご両親が日本に帰って来た。でも大吾さん達がマンションに顔を出すことは無く、春休みに入ってから、私達がご実家に伺った。
―――今、私は一人で正吾君のご実家にお邪魔していた。正吾君はバイトが終わり次第来る予定だ。因みに「春休みシフト」でバイトは午前十時から午後二時までだ。
大吾さんは買い物に出かけているので、今、家には私と心花さんの二人しか居ない。心花さんとは久々にお話しするけど、いつもメールでやり取りしているせいか、不思議と久々感が無い。彼女の柔らかい雰囲気が私を優しく包む。
「ご無沙汰……でもないですね。メールでいつも連絡してたんであんまり『お久しぶり』って感じがしないです」
「だね。でも実際会うとやっぱり違うよ。元気そうで何より」
「はい。正吾君も元気です。彼の健康管理については任せて下さい。去年は風邪一つ引きませんでしたから」
「そこは全然心配してないから大丈夫よ。いつも正吾の事アリガトね」
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さっき正吾君から「帰る」ってメッセージが来た。バイト先から直接ここに来る事になっている。すると―――
”―――ピーン ポーン……”
正吾君が帰って……いや、ちょっと早い。それに正吾君は帰ってきたとき呼び鈴を鳴らさない。お客さんかな?
「丹菜ちゃんお願いできる?」
私と心花さんは台所でお夕飯の仕込みを始めていた。心花さん、ちょっと手が離せない状況になっていたので、私に対応をお願いしてきた。
「はい。私、行ってきますね」
「ありがと」
私は玄関の戸の前に立ち、「はーい」と言いながら戸を開けた。すると、見知らぬ男の子が立っていた。私はごく普通に挨拶をする。
「こんにちは」
すると男の子は「あれ?」って感じで挨拶を返してきた。
「こん……にちわ…………えっと……」
「はい?」
「あの……正吾君……居ますか?」
「正吾君ですか? 正吾君は今、バイトで……間もなく帰ってくると思います」
そう答えると、後ろから心花さんが顔を出した。
「あら?
「あ、おばさんお久しぶりっス。さっき、おじさんの姿見かけたんで、正吾君、来てるかなって思って来てみたっス」
「正吾ならあと十分もしないうちに帰って来ると思うから、上がって待ってて」
「じゃあ、お邪魔するっス」
そう言って、『燈李君』と呼ばれた男の子は家に上がった。
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私は当然「誰だろう?」って感じだけど……
「お茶とコーヒーと紅茶……あとオレンジジュースがありました。何飲みますか?」
「じゃぁ……オレンジジュースで」
私は台所に行き、オレンジジュースをコップに注いで茶の間に座る燈李君の目の前にお出しした。
「どうぞ」
「有り難うございます……えっと……初めまして、向かいの家に住んでる『
「初めまして。葉倉丹菜といいます」
「あの……正吾君とは……どういったご関係で?」
「正吾君の彼女です」
私は笑顔で答えると、燈李君の目が大きく見開いた。
「え―――! マジすか! 正吾君、いつの間にこんな可愛くて綺麗な彼女捕まえたんスか!」
「フフ、有り難うございます。間もなく正吾君が帰ってくるんで、来たら教えますね」
すると、戸が開く音が聞こえた。
”―――ガラガラガラ……”
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
正吾君が帰ってきたけど……聞き覚えの無い女の子の声も……誰だろ?
茶の間に正吾君が顔を出す。正吾君の後ろには前下がりショートボブの髪型の目がクリクリっとした可愛らしいウチの学校の制服を着た女の子が立っていた。ついでに正吾君の服を掴んでる。何この子?
「おう、燈李、久しぶりだな。
「燈李いた♪」
「正吾君ひさしぶりっス。それと……紗凪その制服……」
すると、心花さんが台所から顔を出した。
「紗凪ちゃん久しぶり。あら? その制服……正吾と同じ高校なんだ?」
「おばさんお久しぶりです。四月から燈李と一緒に正吾君と同じ高校に行く事になったんです。今日、制服取りに行ったんで、早速燈李に見せに行ったらこっちに来てるって聞いて、そしたら正吾君とも偶々玄関で会ったんで来ちゃいました」
ご近所さんかな? 燈李君といい、この子といい、私の知らない正吾君がここに居る。なんだか……置いてけぼりな気分だ。
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