前のエピソード――第101話　バナナパニック

　———そして時間は戻り、バレンタインデー当日。

　テンパりにテンパった波奈々は、朝からガチガチになっていた。後で聞いた話しでは夜も眠れなかったとか……。正吾君でリハーサルを済ませいざ本番へ！

　・

　―――本命の小宅君へチョコを渡し、そして小宅君からも波奈々への気持ちを打ち明けられ、彼女の堰が切れる。

「っ……うわぁぁぁぁぁ―――――――ん……」

　教室中に波奈々の鳴き声が響き渡った。波奈々は小宅君に抱きつき、幼子のように泣き叫んでいた。

　その声は廊下にまで聞こえ、教室前を通りかかった人が何人か教室を覗き込んでいた。

「大丈夫。ずっと一緒にいるから泣かないで」

　小宅君の言葉に波奈々は泣きながら頷いている。

　彼は泣きじゃくる彼女の体に腕を回して優しく頭を撫でている。周りにいる人はチョコを渡すところを見ていながらも何が起きたか分からない様子だ。

「正吾君、これって……」

　女の子が状況を分かっていそうな雰囲気でいる正吾君に話しかけて来た。

「見たまんまだよ」

「見たまんまって？」

「波奈々、オタク君の事ずっと好きだったんだよ」

「いつから？」

「文化祭の準備の時から」

　クラスの子達は二人の姿を黙って見ていた。そして———

　———彼女の告白は当然その日のうちに全校生徒が知るところとなる。

　ついでに、小宅君も手作りクッキーを波奈々に渡していたが、そのクッキーは想像の斜め上を行くクオリティーの、波奈々を模したクッキーだった。多分あれ、食べれない。

　・

　———昼休み。

「僕、ここにいていいんでしょうか？」

「いいの♡　他にも部外者（愛花）居るし♡　ね♡　正吾君♡」

「———おいおい、俺の名前にまでハート付けるなよ」

「いいじゃん♡　別に減るもんじゃ無いし♡」

「———まぁ、そうだな」

　波奈々と小宅君は皆からの質問攻めを避けるため、軽音部の部室に避難していた。

「波奈々、良かったですね。でも、小宅君の膝の上に座ってるのは……どうなんでしょう？」

　波奈々は小宅君の膝の上に横座りして首に腕を回して縋（すが）っている格好だ。顔はニコニコのニコニコでニコニコだ。朝のあの壊れたロボットみたいな喋りと動きと表情は何処に行った？

「丹菜がそれ言っちゃう？　あんたも付き合い初めの頃こんなんだったでしょ？」

「え？　丹菜もこんな感じだったの？」

「そっか、波奈々は知らなかったね。うん、休み時間の度っていうかちょっと時間はあればこんな感じだったね」

「じゃあ、私達がイチャベタしても大丈夫だね♡　十斗君♡」

「え？　それはちょっと恥ずかしいよ」

　・

　———その日の夜、私の「私を食べて♡作戦」が計画段階で失敗に終わり普通にチョコレートフォンデュを楽しんで私達のバレンタインは終わった。

　今年のバレンタインの一番大きな出来事は波奈々の告白だ。その裏側では、学校一イケメンの浅原君は持ち帰れない程のチョコを貰いながらも、女の子をお持ち帰りする日々が続いたそうだ。因みに浅原君のストライクゾーンは広いようで、了承さえ貰えば好き嫌いなく殆どの子を食べてるそうで初めての子も何人かいたとか……。

　更に意外だったのが愛花ちゃだ。彼女、後輩からチョコを沢山貰ったのだ……言葉足らずだ。後輩の女の子から沢山チョコを貰ったのだ。

　最近綺麗度が上がり、気がつけば後輩の女子から「お姉様」扱いになっていた。確かに背も高くて姿勢が良くて性格も凛々しくて、女の子が憧れる姿の一つだもんね。

　・

　———時間は進み、ホワイトデー。波奈々はこの日お互いに初めてを迎えたらしい。

　私達も去年同様……正吾君、また白目剥いてた♡

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　そして時間は更に進んで四月、私達も三年生だ。