第90話 浅原大河 ②
―――曲はBメロに入った。
「♬―♪♩―♪♬♪♩―♩―――♬………」
”ドッドッドッドッドドドドドドドド………」
―――! ちょっと待て、ドラム、いつもはリズム違うだろ! ここでなんで? これが「まともに弾かない」ってやつなのか? しかも妙にドラムが音を主張してくる。
「(くっ……ここで演奏を止めたら、希乃さんどころかギタリストとして……ア゛―――――!)」
”ティリティリティリティリティリ♫キャキャキャキャ♪ギャ―――♫ギャキュ♫……
俺は持てる技術の限りを使いギターの音を走らせる!
「♫♬♫♬―♩―♪―♬♪♩♩――♪……
そしてサビに入るが……
”ドコド♪
ドコド♫
ドコド♬
シャン♪”
”ドコド♪
ドコド♫
ドコド♬
シャン♪”
”ドコド♪
ドコド♫
ドコド♬
シャン♪――――
ちょっと待てよ! nIPPiまだギア上がるのか?! こんな歌声、皆の音かき消すだろ?! それなのにドラムはアレンジで更に乗せてくるなんて……僕の音、観客に届いてるのか?
くそっ! ここから僕のギターソロなのに……指が……。
”ダンダダンドコシャン♪ダンダダンドコ
ドドッドドッダットンダカダカ…………
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」
僕の指が限界を迎え、ギターソロは無理と思った瞬間、ドラムが乱打で割り込んできた。悔しいけど助かった……と、思った瞬間!
”♬♬―♩―――♫♫♩♫♩♫――♩――”
”――♬♬―♩―――♫♩♫♩♫――♩”
はぁ?! 更にキーボードが被せてくるのか!? しかもこれ……バトルしてる? ドラムとキーボードでバトルしてる? マジか?! 楽器が違うぞ! しかもライブ中だぞ! こいつら正気か? いや、正気じゃ無い! だけど二人とも限界の筈だ! 音がキリキリしてる。 ……そう思ってノンノノとDai×2の顔を見た……笑っている……二人とも笑っているが…………狂気の笑みだ。マスクから覗く目も見開いている。
……駄目だ……僕のいるステージと彼らのステージは全然違う場所にあった。
割り込む以前に立ってる場所が違ってた……こいつら……こいつら全員、僕の存在を忘れてる……僕はその事実に気付き、演奏する事が出来なくなった……そして僕の手は完全に止まった。
僕は、今、間奏で休んでいる nIPPi を見た……するとゼスチャーで僕に何かを知らせようとしている。僕はskyに目をやると nIPPi と目配せしている。間奏が終わるのか? すると―――
「Hhhhhhiiiii―――――――――――――――――――――…」
ホイッスルボイスだ! この声をキッカケにベースの音が元に戻って、ドラムもキーボードもいつもと同じ旋律になった。
僕もそれに合わせてギターを……弾くことは出来なかった……僕は最後まで演奏すること無く一曲目が終わった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」」
僕は客席を見渡したが、誰も僕を見ている人はいなかった……それ以前に、僕がソロ以降、演奏を止めて居た事に誰一人気付いていない様子だ。
僕は、スッとステージ袖に降りた。袖に降りるとトゥエルブと波奈々が出迎えた。
「僕じゃ駄目だった。ハイスペックスは手に余る……狂気だよ」
「でしょ? 私達だってギリギリなんだもん」
袖に降りてきたノンノノが僕に話しかけてきた。
「じゃ浅原さん、次頑張ってねー。会場、温めておいたから」
「はは♪ ちょっと熱過ぎだよ」
そう言って、波奈々とトゥエルブはステージに上がっていった。
「希乃さん……あの……」
僕が話し掛けると同時に希乃さんが声を掛けてきた。
「浅原君、分かった? これがハイスペックス。あれが大宮大地。私とヤリ目で付き合おうなんて100万年早いよ」
僕はその言葉に何も言い返せなかった。
「あ、二曲目始まるよ」
僕と希乃さんは袖から二曲目の演奏を眺めていた。
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