第57話 新学期
―――春休みも終わり、今日から新学期だ。正吾君のご両親は昨日旅立って行った。
「正吾君、今年も一緒のクラスになれるといいですね」
「―――そうだな」
私達は掲示板に張り出されている新しいクラスの名簿を眺めている。周りは一喜一憂している。私達もその一人だ。
「……あ、私、Ａクラスです」
「―――俺はＥだ」
「え……」
私は絶望した。一緒のクラスでは無いだけでなく、四つ隣のクラスって……気配すら感じないじゃないですか！
「陽葵Ａか……空と芳賀さんはＣ……大地はＤだな……良かったな、また陽葵と同じだぞ」
「全然良くないですよ。正吾君と別々じゃないですか！」
正吾君がメンバー全員の名前を見つけると、陽葵と大地君が後ろから声を掛けてきた。
「丹菜おはよ」
「おはようございます」
「クラスどこだった」
「私はＡだったんですが……正吾君、Ｅでした……」
「あー……それは残念だね」
「陽葵はＡです……大地君はＤ……皆バラバラです。空君と愛花ちゃんはＣで一緒……羨ましいです」
「そっか、大地と別か……残念。正吾君一人で大丈夫？」
「―――ボッチに戻るだけだ。心配ない」
「果たしてそうかなー？ ﾆﾔﾘ」
陽葵は含みのある笑みを正吾君に向けている。その隣で大地君が落ち込んでいた。
「陽葵と別か……残念だな」
「―――大地、ネクタイ頂戴」
陽葵は突然大地君にネクタイをおねだりした。
「どうするんだ？」
そう言いながら、大地君はネクタイを外して陽葵に渡す……すると陽葵は自分のリボンを外して大地君のネクタイを自分の首に掛けた。
「これ、私が付けるから、私のリボン、大地着けて」
「ちょっと待て、それは無理だ。流石にリボンは着けられない」
私は陽葵達のやり取りを見て、なるほどと思った。
「正吾君、私達も交換しましょう」
「いいけど……俺、リボンするの？」
「是非して欲しいです。私は身近に正吾君を感じたいので、正吾君のネクタイ締めたいです。なので、正吾君には私を身近に感じて欲しいので私のリボン着けて下さい」
「―――分かった」
正吾君は躊躇いも無く、私のリボンを着けた。ちょっと緩めに着けている。なんか変だがそれは敢えて口にせず……。
私は正吾君のネクタイを締めると、その匂いを思いっきり吸った。
「―――――――――ぷはぁ～♡ いいですね。正吾成分補充出来ます」
私は正吾君と手を繋いでＡクラスの前に来た。陽葵達も一緒だ。
「ここでお別れです……ｸﾞｽ」
「放課後、早い方が相手の教室に向かうって事でいいな？」
「休み時間も顔出しますね」
「時間ないだろ？ ネクタイで我慢しろ」
「そうでした♪」
「じゃあな」
・
・
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私と陽葵はＡクラスへ入った。すると、元１－Ｂの子達が話しかけて来た。
「やったね。葉倉さんと同じクラスだよ……あれ？ 葉倉さんと希乃さん……ネクタイ？」
「あ、これ？ ふふーん♫ 私達の彼氏のネクタイです。これでいつでも正吾君と一緒……ス―――――ハァー ……いい匂いです」
「丹菜、それちょっと変態入ってる」
元クラスメイトの子が羨ましいそうに呟いた。
「あ、いいなー」
「へへへー、貸してあげませんよ」
「えー……要らないよ。そっか、正吾君別になっちゃったんだ……残念だったね」
このやり取りを見ていた周りの子は私が意外と話しやすいと分かったようだ。
「葉倉さんってあんなに気さくなの？」
「もうちょっと堅いイメージあったけど…」
「なんだかやってる事も可愛いね」
「私も彼氏のネクタイ貰ってこよ」
私の席は廊下側から二列目の一番前。陽葵は廊下側から三列目の一番後ろだ。ちょっと離れたけどOKだね。
新しいクラス……うまくやっていけかな？
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