第58話 新しい季節

 ―――始業式が終わり、教室に戻ってLHRまでの空き時間、皆雑談をしている。


 このクラスにいる去年1-Bだった人は私を含めて五人いる。内、女の子は私と陽葵ともう一人の女の子……去年、文化祭の実行委員だった田中さんだ。今、陽葵と田中さん、そして田中さんの友達と話をしてる。


「正吾君、リボンしてたけど……あれ、葉倉さんの?」


「そう。私のと交換したんです。陽葵の彼氏の大地君は流石にリボンはしてくれなかったみたいですが……」


「いいね、明日から私も彼氏のネクタイ借りてこよっと」


 陽葵が田中さんに突っ込んだ。


「え? あんた彼氏いたの?」


「いたよー。毎日一緒に居たんだけど……気付かなかった? 隣の席の……」


「マジ? あいつあんたの彼氏だったの!


 私もちょっと驚いた。去年、そんなそぶり素振りが無かったからだ。


 田中さんのお友達が正吾君について聞いてきた。私の正吾君取るつもり?


「それより、葉倉さんの彼氏ってどういう人なの? 去年、1-Bの子達、結構気さくに声掛けてたみたいだけど……なんか見た感じ暗そうっていうか……怖そうっていうか……近寄り難い感じ?」


 私が応える前に、田中さん答えてくれた。


「見た目と態度はそうかも知れないけど、中身は全然違うよ。女子の殆どが『正吾君』って呼んでるし、男子は『正吾』だし、挨拶すれば返してくれるし、クールに振舞ってるけど、さっきみたくリボンとか平気で着けたりするし……多分、葉倉さんが喜ぶ事ならなんでもするんじゃない?」


「ズバリそのとおりです! ご褒美に少しだけならネクタイの匂い嗅がせて上げてもいいですよ」 


「あ、それは結構です」


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 ―――LHRが始まった。


「改めて、私が担任のたちばな(女)だ。今年一年間宜しく。早速だけど、皆から自己紹介して貰おっかな。あと、学級委員とかきめるぞ」


 結構男勝りな先生だ。


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「葉倉丹菜です。えーっと……趣味は音楽鑑賞です。宜しくお願いします」


 自己紹介の順番は五十音順だ。私の前までに半分位の人が既に済ませている。

 私の番までに皆、自己アピールで、所属の部活とか趣味とか話しているが、私はその辺の情報は一切話すつもりは無かった。ただ、それだとちょっと素っ気無い感じなので、「趣味は音楽鑑賞」って事にした。実際歌う方が趣味なんだけどね。


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 自己紹介のあと、委員とか係とか決めてLHRは終わった。終わり間際、先生から、


「来週月曜日、新入生の歓迎会あるから宜しく」


 ―――そう言えば、私達、部活始めたんだった……部活の紹介どうすんだろ?


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 ―――放課後。今日は午前中で終わりだ。私と陽葵は急いでそれぞれ彼氏の元へ駆けつけた。


「正吾君お待たせしました! ハァ ハァ ハァ」


 私が2-Eの教室に顔を出すと、一瞬、教室内が騒然とした。


「あ、葉倉さんだ」

「相変わらず可愛いな」

「御前君様々だな。こんな間近で葉倉さん見れるなんて」


「おいおい、走ってくるなよ」


「会いたかったんです。急ぎもしますよ」


「空、捕まるかな?」


「どうしたんですか?」


「来週の新入生歓迎会の部活……」


「それ、私も気になりました。ちょっと集合ですね」


 すると正吾君のスマホが鳴った。電話は空君からだ。空君も私達と同じ考えだったようだ。


 私達は部室へ向かった。


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 ”―――ガラッ”


「半月ぶりですね」


「だな」


 先輩から譲り受けたこの部屋は、殆ど、私達の「お昼休みに過ごす場所」になってしまっている。ちょっと先輩に申し訳ない気持ちが芽生えていた。一応、楽器は鳴らしているよ。


 私と正吾君、そして陽葵達は先に部室に来ていた。ちょっと遅れて空君が部室に入って来た。勿論、愛花ちゃんも一緒だ。


 皆揃い、空君が口を開いた。


「集まって貰ったのは他でもない。来週の新入生の歓迎会だが……腹減ったな。外でメシ食いながら話すか?」


「賛成! お昼過ぎてるしね」 


「何故ここに集めた?」



 私達は「喫茶希乃音」に向かった。

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