第77話 台風の目

 ———始業式、体育館に移動する。


「陽葵、一緒に行きましょう」


「うん、行こ」


 私と陽葵は一緒に並んで歩いている……が、陽葵の隣に浅原兄が一緒に並んで歩いている。そして陽葵に話し掛けてきた。


「まさか希乃さん達と一緒のクラスになれると思わなかったよ」


 陽葵は黙ってる。そんなことはお構いなしに間髪入れず私にも話し掛けてきた。


「そう言えば、君の名前、聞いてなかったね」


「葉倉です。葉倉丹菜です」


「宜しく、葉倉さん」


 そんな会話をして歩いていると、浅原兄の後ろに結構な数の女の子が付いて来ていた。私達の事を話しているようだ。


「浅原君って、希乃さんと葉倉さんの事知ってんの?」

「今日、葉倉さんと希乃さん、いつも以上に可愛くキメてるけど、この三人、今正面から見たら凄い事になってそう」

「カッコいい男と可愛い子って組み合わせが……もうね」


「君達凄い噂されてるけど……やっぱ可愛いから?」


「まあ……可愛いかは別として、一応、私達、不本意ですけど学校内では注目浴びちゃってるみたいなんで……。ついでに浅原さんのことでも騒ぎになってるようですよ?」


「ま、見たことない男がいたら『誰?』ってなるよね?」


「はは……それだけじゃ無いみたいですけど……」


 まだ、彼の存在は他のクラス、学年には知られていない。ただ、私と陽葵がバージョンアップしたことは知れ渡っていて、皆こっちをチラチラ見ている。すると当然浅原兄も目に入るわけで……体育館に着く頃には私達を含め結構な騒ぎになっていた。


「並び順ってなんか決まりあるの?」


「集会では男女別に並ぶくらいで順番とかは特に無いです」


「なら、僕はここでいいかな」


 そう言って、陽葵の隣に並んだ。大体真ん中辺りだ。

 私と陽葵、そして浅原兄が一つに固まって並んでいたせいで、全校生徒が整列する頃にはAクラスはとんでも無い騒ぎになっていた。愛花ちゃん曰く「そこだけ違う世界になっていた」そうだ。

 そんな状況の中、私はEクラスの……正吾君に目を向けると……なんで正吾君の隣に浅原妹が立ってんの!


 浅原兄は、転校初日で生徒全員の知るところの存在となった。妹の方は翌日には知れ渡ることになる。


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 始業式も終わってLHRだ。それまで少し時間があるから浅原兄の前に女の子が群がって質問攻めだ。浅原兄は手慣れた感じで受け答えしている。席が隣の陽葵は居場所がなくなり私と一緒にベランダへ避難した。


「うー ……皆あっち行けー」


「なんか、そのセリフ聞きようによっては『浅原兄は私のだから近づくな』にも聞こえますね」


「えー! この世に男は大地しかいなーい♡」


「あら? 正吾君の間違いではなくて?」


「言い換えよう。私の世界には大地君しかいない♡」


「なるほど。それ、今度私も使わせて貰いますね」


 ふと、Eクラスの方に目をやると、正吾君がベランダに出て来た。


「(何♡ 私の存在感じて出て来たのかしら♡)」


 って、あらかた陽葵と席が同じ場所だからこっちと同じ状況なんだろうね。

 私は正吾君の元に行きたかったが流石に気軽に行く距離ではない。なので投げキッスを連発した。すると、正吾君は空中で何かを掴む仕草をして、自分のホッペにくっつけた。私の投げキッス掴んでホッペにつけてくれたのかな? たまにそういう事するからスキスキなんだよ♡


「ま、浅原君は私らには関係ないね。しかし、地下室で言った一言がしっかりフラグになったとは……」


 暫くそんな雑談をしながら教室の声に聞き耳を立ててると……、


「向こうでバンド組んでたんだけどな……」

「希乃さん? ちょっと知り合うキッカケあってね」

「前の学校では……」

「彼女? いないいない。誰か紹介してくれると嬉しいね」

「家? それは内緒。君んち教えてくれたら考えちゃうかな?」

「La・IN? こればっかりは気軽に教えてないんだよ。ごめんね」


 なんて声が聞こえて来た。バンドの話が聞こえてきたが……なんか嫌な予感がした。

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