第73話 嵐は去った

 ”———ジャン!“


 葉倉凛々亜の為だけの客単独ライブ。その一曲目が終わった。リリちゃん終始目を丸くして私をジッと見てた。


 そして空君がリリちゃん相手にライブと同じように話し始めた。因みにマイクは無い。


「今日は、葉倉凛々亜さんようこそお越しくださいました。ハイスペックスです! キメッ」


 言葉の締めに全員で横ピースをする。


「メンバー紹介!」


「ハイスペックスボーカルのnIPPiでーす キメッ」


 リリちゃん口をあんぐり開けたままだ。メンバーは構わず自己紹介を進める。


「キーボード担当ノンノノでーす キメッ」


「ギターのトゥエルブでーす キメッ」


「ドラムのDai×2でーす キメッ」


「最後にベース担当ハイスペックスリーダー skyです キメッ」


 リリちゃん、最後まで狐に摘まれた顔してる。


「リリちゃん大丈夫?」


「え? あ、大丈夫じゃ無い……丹菜ちゃん、あんた何やってんの!」


「え? ボーカル」


「いや、見りゃ分かるけど、そうじゃなくて、何で……えー! 丹菜ちゃんだったのー! ハイスペのボーカルって」


「nIPPiです キメッ」


「それはいいから、でもホントビックリだよ。丹菜ちゃんこんなに歌、歌えたんだ」


「へへー、それじゃあ、二曲目———」


 話が終わらなさそうだったから、次々曲を進めていった。二曲目からはリリちゃんもノリノリで曲を楽しんでくれたみたいだ。


 ・

 ・

 ・


 練習が終わって———


 改めて正吾君がリリちゃんに「御前正吾」として挨拶をした。私が「婚約者の」って言ったら、正吾君怒ったけど、リリちゃん、叔父さんに言われてたらしく、反応は今一つだった。


「ね、写真いい? ノンノノも一緒に。出来ればトレードマークのキャスケット被ってくれると嬉しいんだけど……二人とも素顔可愛いんだけど、口元だけってのも可愛いんだよね。それに素顔より顔隠した方が『ハイスペックス感』出るしね」


「それだったらいいよ。陽葵もいいよね?」


「うん。それなら全然OK。丹菜帽子ないよね? 持ってくるよ」


「ありがと」


 陽葵は家に帽子を取りに行った。


「でも、リリちゃん、ハイスペックスのファンって驚いたよ」


「何言ってんの! こっちが驚いたよ。何で黙ってたの?」


「一応。皆に内緒だからね。私達の正体知ってる人、みんなの両親とか除いて……三人居るのかな?」


 実際には高瀬さんと愛花ちゃんの二人だ。佐藤さんは正吾君がイケメンって事は知ってるけどトゥエルブって事は知らないはず。


「知ってる人そんなに少ないんだ?」


「叔父さん達には内緒でお願いね。なんか、色々言いふらしそうだし」


「だね。お父さんに言っちゃダメなやつだね」


 陽葵が戻ってきた。


 私達は三人で写真を撮りまくった。正吾君は普段、顔出してるからそのまま写った。

 そして、メンバー全員で写真を撮った。愛花ちゃんも撮ろうって促したが、撮影すると言って入らなかった。

 大地君はサングラスを部屋から持ってきたが、空君テンガロンハットを準備していなかったが……何と! 大地君のお父さんが持っていた。


 ・

 ・

 ・


 帰り道、私達三人は荷物をコインロッカーに入れて、回転寿司を食べに行った。リリちゃんどうして私の家に来ると必ず寿司なんだろう?


「そう言えば、リリちゃんいつまで泊まれるの?」


「うん、明日には帰るよ。 ―――あ、マグロ取って」


「はい、マグロ。 ―――なんか早くない?」


「うん、今日突然来たのはお父さん……、 ―――ごめん鉄火巻きお願い……お父さん、丹菜の彼氏の事ベタ褒めするからどんな人か気になって…… ―――あ、ありがと……それでいても立っても居られなくて来てみたんだ」


 ・

 ・

 ・


 この日の晩は、暫く正吾君の部屋でアコギの音をBGMに私がハイスペに入った経緯とか正吾君と付き合うまでの経緯とか語り尽くした。


 ・

 ・

 ・


 ———翌日、朝早く、最寄り駅まで正吾君と見送りに来た。


「どうもありがとね。今度、私のアパートに二人で遊びに来て」


「うん、絶対行くよ。それまでに彼氏作っててね」


「分かった。でも彼氏できちゃうと……四人寝れるかな?」


「大丈夫。私、正吾君敷布団にして寝るから」


「———だな」


「えー! 正吾君それでいいの?」


「———丹菜軽いし……大丈夫」


「なんか今、変な間があったね……ま、いいや。電車に来たしそれじゃあ」


「じゃあね」


 ・

 ・

 ・


「正吾君、リリちゃんどうでした?」


「嵐のような……鉛筆机から落ちただけで喜びそうな人だな」


「実際、ホントにそれで喜びます。一緒にいた時は毎日が楽しかったです」


「こんなこと言ったら———怒ったらごめん、丹菜さ、両親亡くなってから、塞ぎ込む暇無かったんじゃないか?」


「分かります? そうなんです。リリちゃんのお陰で毎日楽しくて……今振り返るとずっと笑ってたからお父さんもお母さんも安心できてたと思います」


「俺もそう言われるように頑張んないとな」


「大丈夫ですよ。私今幸せすぎて怖いくらいですから」


「———この状態維持するの大変そうだな……」


「ふふふ、頑張って下さい チュッ」





 私って、本当に周りの人に恵まれてるんだな……皆ありがとう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る