第72話 夏の嵐

 ———今日は土曜日、来週のライブに向けて練習がある。間も無く出かけるので準備をしていると……。


“ピコン”


 私のスマホにメッセージが入った。私はメッセージを読む……うーん……彼女らしい行動……かな? 一応返事を打つ。


「正吾君、突然なんですけど、従姉妹の凛々亜りりあ姉さんが遊びに来るみたいです」


「いつ?」


 ”ピーンポーン“


「今です」


 今し方メッセージが入り、サプライズで既に私の部屋の玄関前に来ていたらしく、呼鈴を鳴らしても出なかったので私にメッセージを寄越したようだ。私達これから出かけるところだったんだけど、居なかったらどうしたんだろ?


「葉倉凛々亜りりあ」、叔父さんお父さんの兄の娘。なので私の従姉妹だ。私は「リリちゃん」って呼んでる。


「こんにちわ」


「リリちゃん久しぶり。ダメじゃんちゃんと前もって連絡くれないと、私居なかったらどうしたの?」


「大丈夫だって、実際居たじゃん」


「今から出かけるんだけど……」


「え? そうなの?」


「正吾君、どうしよう……」


「———皆に聞いてみるか……」


 正吾君は皆にメッセージを送信した。


“ピコン”

“ピコン”

“ピコン”


 皆から返信が来た。


「———OKだってさ」


 皆から了承は貰った。


「リリちゃん、今から……私達と一緒に出掛けない?」


「何処に?」


「うーん……楽器……屋さん?」


「何で疑問形? でもいいの? 私が一緒しちゃって」


「一応、これから会う人達もいいよって言ってるから大丈夫」


「なら遠慮なくご一緒させて頂きます」


 私は「バンドの練習」って事を伏せてリリちゃんも一緒に連れ出した。


 着替えは勿論、正吾君はギターを背負ってる。普通に出かけるには結構な荷物だ。


「結構大荷物だね」


「夏だからね」


 ・

 ・

 ・


 電車に中では殆どリリちゃんの大学での話で盛り上がっていた。


 電車から降りて私を真ん中に私の右に正吾君、私の左にはリリちゃんが並んで歩いた。そしてリリちゃんから以外な一言が……。


「あのー ……二人の出掛けに来たからバタバタしてて彼氏さん、ちゃんと紹介されてないんだけど……彼……トゥエルブさん……だよね?」


「———!」


 ビックリした! 正吾君もビックリだ。

 何でリリちゃんトゥエルブ知ってる?


「へ? 何でトゥエルブ知ってるの?」


 私も正吾君もビックリした。まさかこの街以外で知ってる人に会うなんて思って無かった。しかもそれが親戚って……。


「だってうちの大学にハイスペックスのファン結構いるんだよ。伊達にフォロワー数万単位じゃないよぉ。私もフォロー入れてるし、動画全部チェックしてるし、カッコいいし———あ、握手して下さい」


「———俺で良ければ」


 私を挟んで二人は握手する。


「ギター背負ってるって事は……練習かなんか?」


「う、うん……そうなんだけど……」


「え? じゃあ、もしかしてハイスペのメンバー皆いるとか?」


「まぁ……ね……」


「うそ! マジで? やった♪ 私、nIPPiのファンなんだよ! 今日、来るの?」


 うっそー! よりにもよって私のファンって……。


「うん、来るよ……」


 そうこうしてるうちに大宮楽器店に着いた。


 ・

 ・

 ・


「こんにちは」


「お? 丹菜ちゃん来たな? 正吾も元気そうだな」


 いつものように大地君のお父さんが出迎えてくれた。


「———こんにちは」


「今日はゲスト付きか?」


「私の従姉妹です。突然遊びに来ちゃって……」


「こんにちは。お邪魔します」


「皆来てるよ」


 おじさんは親指で二階を指差す。私達はそのまま二階に上がった。


「丹菜ちゃん随分場慣れしてるね」


「うん……結構来てるから…」


「なんかさっきから歯切れが悪いなぁ」


「はは…… アセ」


 扉を開けると既に愛花ちゃんも含めて皆揃っていた。


「こんにちはー」


「あ、来た来た……ん?」


 四人皆、リリちゃんを見てる。一応、従姉妹を連れてくとは言ってたから分かってる筈だけどやっぱり気になるよね。


「えっと、私の従姉妹の凛々亜姉さん」


「葉倉凛々亜です。今日は突然お邪魔しちゃって御免なさい」


 ここは空君が対応する。


「いえいえ、いつも一人ゲストいるんで気にしないで下さい」


「ところで皆さんがハイスペックスなんですよね?」


「———!」


 皆、金縛りにあった。正吾君が経緯を説明する。


「俺の顔見てトゥエルブって顔割れした」


「マジ?」


「彼女俺らのファンだって。行ってる大学でも俺らのファン多いらしい」


「マジかよー 凄えな俺ら」


 大地君、自画自賛だ。そして空君ファンに嬉しいサービスだ。


「それじゃあ、今日は彼女のためだけの逆単独ライブやるか」


「うそ♪ 凄い! ちょっと、何このサプライズ!」


 私達は自己紹介もせず、早速スタンバイを始めると……


「あれ? 何で丹菜ちゃんマイクのセッティングしてんの? ボーカルって彼女愛花じゃないの?」


 愛花ちゃん「違う違う」って首と手を振って全力否定だ。そして、ボーカルに指を差す。


「はぁ?———」


 リリちゃん、愛花ちゃんが指を差した人を指差して葉倉丹菜を見て目が飛び出るんじゃないかってほど目を丸くしている。


 リリちゃんの状態はお構いなしに逆単独ライブの始まりだ!

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