第70話 浅原兄妹

 ———高校生の部が始まった。


 陽葵は最後の方だ。

 さっきも言ったように皆上手い。楽器が弾けない私にはそれしか言えない。


 ただ、その中でも一際目立つ……と言うか、印象に残った子がいた。真っ赤なドレスで陽葵と同じくらい可愛らしい子だ。

 演奏も何だかクラシックを演奏してるんだけど何処か馴染みのある雰囲気を覚える……なんだろう? 婚約者の正吾君に目をやると、指がリズムを刻んでる。大地君もだ……そっか! これ「ロック」っぽいんだ。

 音の「溜め」と言うか音が出る瞬間の「間」みたいなところが何となくロックしてる感じなんだ。面白い。初めてこのコンクールで「面白い」と思う演奏を聴いた。


 演奏が終わるとホールは拍手喝采に包まれた。

 この場にいる人は「ロック」を感じて拍手してるんだろうか? その位分かりにくい取り入れ方をしていた。


 ・

 ・

 ・


 ———そして、陽葵の番が来た。


 いつも聞き慣れた陽葵の旋律……今日は初めて聞く陽葵のクラシック……の筈なのに何処か違和感を覚える……なんで? そう思っていると正吾君が一言呟いた。


「JAZZだな……」


―――!


 そっか! バンドでの陽葵の演奏はJAZZっぽい「跳ね」が特徴だ。この跳ねは「ハイスペックスのノンノノのキーボード」ってカラーにもなっている。

 

 陽葵の演奏もさっきの赤ドレスの子と同じだ。さっきの子は「ロック」を感じたが、陽葵はクラシックの中に……JAZZを感じる……シャッフル? スウィング? 私には微妙な感じで分からない。分からないけどライブでの陽葵のソロパートは結構JAZZっぽいノリを感じる。陽葵はその「雰囲気」をこの演奏の要所要所に入れてきている。跳ねる感じが曲のアクセントになって、なんとも楽しい感じだ。クラシックとしてはどうかと思うけど、「音楽」としては……一つの可能性を見た気がする。


 陽葵の演奏が終わった。拍手が凄い。赤ドレスの子と同じくらいの喝采だ。多分、拍手してる人は「JAZZ」の要素がわかって無いような気がする。その位「ひっそり」混ぜ込んでいるのだ。


 ・

 ・

 ・


 結果、陽葵は「技能賞」を受賞した。


 私達はロビーで陽葵が出てくるのを待った。


「皆お待たせー」


「陽葵よかったです。何あのチョイチョイ差し込んでたシャッフルっぽい跳ね、楽しかったですよ」


「ありがとう。今回のテーマは『弾ける感じ』だったから、そう感じて貰えたなら私の中では満点だね」


 すると後ろから陽葵を呼ぶ声がした。


「希乃陽葵さん?」


「ん? はい」


 皆声のする方に目を向けた。すると可愛らしい同じ歳位の子が手を後ろに手を組んで立っていた。凄く可愛い。陽葵と同じレベルだ。更にその後ろに男性が立っている。この人も凄くカッコいい。なんか二人、顔が凄く似ているけど……。


「私、コンクールで銀賞頂いた『浅原波奈々あさはらばななと言います」


「……はい……」


 声を掛けてきたのはあの「赤ドレス」の子だ。陽葵、グイグイくるこの手の人は結構苦手。だから挨拶も警戒心の塊みたいな挨拶だ。でも人見知りとは違うらしい。


「その制服に校章……皆さん二年生……だったりします?」


 私達の制服のワイシャツとブラウスは学校指定で校章が入っている。

 陽葵は完全に警戒して会話もままならない感じだ。なので彼女に変わって私が答えた。


「はい。そうです」


「だったら、夏休みが明けたら宜しくお願いします。私達、皆さんの高校に編入するんです」


「私達って……」


「あ、僕、こいつの双子の兄の『大河たいが』って言います。宜しく。しかし、お二人共可愛いですね」


「可愛いだなんてありがとうございます。うちの高校に編入ですか? じゃあ、同じクラスになったら宜しくお願いします」


 私の挨拶に浅原波奈々が答える。


「はい。その時は宜しくお願いします。希乃さんのことは以前のコンクールで知ってたので今回お会いできて嬉しかったです。また、学校でお会いしましょう」


「それじゃあ、僕達はこれで失礼します」


 そう言って赤ドレスの女の子「浅原波奈々」と「浅原大河」は去って行った。


「なんか、彼女、丹菜ちゃんぽかったね。兄の方は……カッコいいけど……初対面で『可愛いですね』は……どうなの?」


 大地君がボソッと言う。その言葉に婚約者の正吾君も同意するけど……。


「確かに妹の方は『ぽかった』けど……やっぱ違うよ。男の方は……俺は嫌いなタイプだな。丹菜と陽葵を見てる目付きが……やな感じだ」


「うちの学校8クラスあるからね、同じクラスになることなんてまず無いよ」


「陽葵……今のでフラグ立ったな」

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