第69話 コンクール

 ———夏休みに入った。最初のイベントは陽葵のピアノコンクールだ。陽葵、出場するとのことで招待された。


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 ———私は婚約者の正吾君と二人でピアノコンクールの会場に来ている。勿論、大地君も来ている。空君と愛花ちゃんはそれぞれ用事があるとかで残念ながら来れないらしい。


 本来こういう場での服装はスーツとか何だろうけど、生憎フォーマルな服は持っていない。オシャレな服は沢山有るけど、あまり華美になるのもね。それに正吾君が「個性を出す場所じゃない」って事で、皆、無難に制服で揃えた。結構、制服って万能服だ。それにうちの高校の制服って結構可愛いから休日も来て歩いてる子が多い。


 ちなみに会場内での婚約者の正吾君の前髪は上がっている。制服姿で「トゥエルブ形態モード」。結構レアである。


 三人でロビーで雑談していると、綺麗なドレス姿の陽葵がやって来た。


「丹菜ー、来てくれたんだぁ、ありがとう♪」


 陽葵のドレスはノースリーブでオーガンジー生地がフワフワして妖精のように見えなくもない、でもシックなデザインの大人なロングドレスだ。

 今度この手のドレス着てライブ出るのも面白いかも。


「こんにちは。二人で来ました」

「―――よっ」


 私と婚約者の正吾君は陽葵に対してそれ以上の言葉は言わず陽葵の姿を黙って見ていた。見ていたというより待っていた。


「陽葵はやっぱり綺麗だな……学校でもこうしてくれると嬉しいかなって最近思うんだけど……」


 大地君の「綺麗だな」の言葉を頂いたところで私達も口を開く。


「陽葵、本当に綺麗です。そうですよ、大地君の言うとおり、もう内緒にする事も無いんです。オシャレして学校一緒に歩きましょう。陽葵が本気出すなら私も本気出します」


「大地が望むなら……うん」


 学校での私達……陽葵は以前から言ってるとおり地味に仕上げている。実は私もメークは必要最小限にしていて髪型なんかはあまり変えたりしていないのだ。

 ライブの時は帽子で顔が隠れるようにするけど、念の為、全力メークはお互いしている。

 因みに今日も全力メークだ。髪も後ろをアップにしてオデコも丸出しだ。なのでさっきから周りの視線を浴びている。

 陽葵は衣装も相俟ってとんでもないビジュアルになっていた。綺麗と言うか可愛いと言うか……私の婚約者、正吾君も見惚れているけど今回はしょうがない。これは見ずにはいられないもんね。


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 私達はホールに入り、少し後ろの方に陣取った。今日は希乃パパは来ていない。お母さんが来ていると言っているが姿が見えない。実は陽葵のお母さんに会ったことは一回しか無くて殆ど面識が無いのだ。

 大地君にどんな人か聞いてみたら「ロックな人だよ」と婚約者の正吾君みたいな事を言ってた。

 ピアノでロックって……ここはクラシックな曲のコンクールだよね? お母さんがロックな人って……。


 コンクールが始まり、まずは小学生の部から始まった。皆可愛らしい衣装で「上手にピアノを弾いている」と言いたいが……上手すぎる。何? 何でこんなに流れるように弾くことが出来るの? これで小学生? 御免なさい。私、嘗めてました。小学生嘗めてました。

 

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 中学生の部……もうね、素人の耳には小学生との違いが全くわからない。何となく曲が難しいかな? って思う程度で技術的には「部門分けする必要あるの?」って感じだ。


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 ———休憩に入った。


「正吾君……私、嘗めてました。皆凄いですね」


「あぁ、なんか……ロックだな」


「今ならその意味分かります。熱量が半端ないですね」


「それだ! 熱量……ちょっと帰ってギター弾きたい気分だな」


 大地君も同意する。


「そうなんだよ。毎回コンクールに来るとさ、帰ってから無性にドラム叩きたくなるんだよね」


「次は高校生の部だね…… 大人の部みたいなのは無いんですか?」


「今日は無いみたいだよ。あれば『U-3030歳以下』とかの枠があって、年齢の条件だけで参加出来るみたいだけど……二年前、陽葵はその部門で金賞取ったんだよ」


「凄いよな。今回も優勝候補なのか?」


「いや、陽葵のコンクール出場って陽葵の自己表現を目的にしてるみたいだから、いつも優勝とか気にしてないみたい」


「自己表現?」


「おばさんが言うには『賞なんて審査員好みでしか無い。皆「音を楽しんでる」んだ、その演奏に順位を付けるなんてナンセンス。皆、金賞でいいんだよ』だそうだ。コンクールに出るのは『自分を表現する場』としておばさんはコンクール以外の方法を知らないから仕方なく陽葵を出場させてるらしい」


「なんかロックだな」


「だろ? 多分、マスターよりロックが好きなんじゃないかな?」


「なるほど……以前、陽葵から聞いたことあったが『色んな音楽に触れろ』って教えが見えた気がするな」


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 ———そして高校生の部が始まった。

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