第55話 写真の子供達

 ―――翌日。


 午後になって、私達は大吾さん達の荷物を持って正吾君の実家へ行く事になった。


「丹菜、着替え、ちょっと多めに持てよ」


「どうしてですか?」


「多分、掃除させられる。俺の予想だと庭の雑草取りだな」


「雑草取り……ですか?」


「汚れるぞ。それに家の中も少し埃っぽいから———親父、午前中に掃除終わらせるつもりで『午後にでも来い』なんて言ったんだろうけど、午後も家の中掃除すると思う」


「分かりました。ちょっと汚れてもいいような服とか持って行きますね」


 私達は準備万端! マンションを出発した。ご両親のスーツケースを持って……結構大きい。


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「おう、来たぞ」


「こんにちは」   


 正吾君のご実家に着いた。家は一昔前の何処にでもある家で、二階建てだ。

 家の中から掃除機の音が聞こえる。心花さん二階で掃除機を掛けているようだ。


「待ってたぞ。早速だけど二人に草むしり頼んでいいか?」


 その言葉に私と正吾君は顔を合わせた。


「な」


「ふふ」


 予想が当たるとなんか嬉しくなるもんだね。キレイ好きの私としては掃除は楽しいイベントだ。


 私をお客さんとして扱っていないのも嬉しい。気を遣われるとこっちも気を遣っちゃうしね。この距離感がまだ二日しか一緒に居ないけど御前家の一員になった気分でちょっと嬉しかったりする……ん? 「御前丹菜」……”ボッ!”


「おい丹菜、なに耳まで顔真っ赤にしてんだ?」


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 私達は着替えて庭に回った。庭は狭く、車が一台入る程度の大きさだ。


 庭の草は枯れてはいるが土に根を張り鬱蒼としている。


「正吾君、やりましょう!」


「———おう」


 やる気のない返事が返って来た。


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「きゃっ!」


「大丈夫か?」


「いったー……お尻痛い……二つに割れたぁ」


「大丈夫だ。お前の尻は、元は3つだったからな」


「―――正吾君、それはどう返せばいいのですか?」


「その前に、『尻が二つに割れた』に対する返しの正解を教えてくれ」


 そんな話しをしながらも、庭の除草は一時間位で終わった。草が伸び切っていたので纏めて掴んで根こそぎ取ることが出来たから結構楽で早く終わった。


「大吾さん終わりました」


「それじゃあ次、拭き掃除お願いしていいかな?」


「はーい♪」


 うん。掃除は楽しいね。私は雑巾片手に色んなところを拭きまくった。

 

 暫くすると、心花さんが、


「丹菜ちゃん、お夕飯の食材買いに行こ♪」


 と、誘ってきた。勿論OKだ。


「あ、はい。ちょっと着替えますんで待ってて下さい」


「はーい」


 心花さんもなんだか楽しそうだ。私を「娘」に見立ててるのかな?


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 私と心花さんはスーパーで買い物を済ませたんだけれど、いつも正吾君との買い物と違って楽しさの種類が違った。親戚の叔母さんとの買い物は、私がまだ子供だった事もあって、ただ着いて行くと言う感じだったけれど、高校生になって一人で買い物も料理もするようになった今は心花さんとの買い物がすごく楽しく感じる。

 心花さんは私を「友達」という感じで見ているのだろうか? 私に意見を求めてくるし、その意見を採用してくれる。正吾君との買い物とは違う楽しさがあった。


 ―――よく考えると、私って、友達と買い物したことが無い。正吾君以外の「友達」と呼べる人と買い物をしたことが無かった事に気が付いた。陽葵ですら一緒に買い物したことが無かった。

 今度、陽葵を誘って買い物に行ってみよう……バンドのステージ衣装選びなんかいいかも。楽しそうだね。


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「ただいまー」


「お? お帰りー」


 家に戻ると、正吾君と大吾さんが、二人でパソコンのモニターを見ていた。


「そう言えば正吾君、バイトはどうしたんですか?」


「親父、今日帰って来るって言ってたからシフト代わって貰ってたんだ」


「そうだったんですね。ところで二人で何見てるんですか?」


「———これ見てみ」


「……子供……あ! これもしかして、正吾君……こっちは大地君……それと陽葵と私ですね」


 写真に写っていたのは、4、5歳の頃の私達だ。

 昔一度会ったことがあると言っていた、その時の写真だ。ただ、正吾君は懐かしむ様子も無く、真剣な顔で画面を見続けている。


「丹菜さ……ここに写ってるこの子……これって……」


 画面に指を差す正吾君。その画面……写真には私達が横一列に並んでピースしている姿が映っているのだが、そのすぐ後ろに鼻水を垂らした子供が一人立っていた。


「……確かに……面影というか……この子……空君にしか見えませんね」

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