第54話 ウェイター

「いらっしゃいませ。お召し物お預かり致します」


 正吾君は、深く一礼をして、私達が羽織ってきた上着を預かり、奥にいるスタッフへ手渡し、私達をテーブルまで案内してくれた。


 気が付くとウェイターが更に二人増え、私達三人の椅子とサッと引き、腰を下ろすと同時にサッと出した。私を担当したのは正吾君だったが、流れるような所作はバイトとは言え、見事としか言いようが無かった。


「失礼します。メニューで御座います」


 正吾君はそう言うと、一人一人にメニューを置いていった。


 正吾君はレストランでは髪をオールバックにしている。流石にここでのウェイターがカチューシャはアウトだよね。


 正吾君は私達を「身内」としてでは無く、「お客様」として扱っていた。

 いつもどおり「キメるときにキメる」ってやつだ。私語も一切無い。ちょっと表情ははにかんでいるけど……可愛い。


 そして、注文はコース料理を頼んだんだけど、ここってイタリアンレストランだったんだね。フレンチの名称と全然違うせいか、正吾君の言葉が一々格好良く聞こえてしまった


「失礼します。こちら、アペリィィティーボとストゥッツィーノで御座います。食前酒のスパークリィィングワインとそのおつまみです。お嬢様のは微炭酸のジュースですのでご安心してお飲み下さい」


 なんか正吾君の発音、巻き舌が強すぎなんですけど。

 それはさておき、私のこと「お嬢様」って……ふふ♪ 家でも呼んでくれるとちょっと嬉しい……か・も♡


 ―――そして次の料理が運ばれてきた。


「失礼します。こちらアンティパスト……前菜です。今日の前菜は―――」


 ウェイター正吾君は前菜の素材と調理方法を一つ一つ丁寧に説明し、テーブルを去って行った。

 そして次々にテーブルの皿が入れ替わり、お皿を出してはその料理の説明をしては奥へ下がって行く、を繰り返した。


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「失礼します。こちら、コースメニュー最後の品、ディジェスティーヴォ……食後酒のレモンのリキュール『レモンチェッロ』です。お嬢様には少し酸味の強い微炭酸のレモン水をお持ち致しました。」


 最後にもう一回「お嬢様」が聞けた……やっぱいい♡

 正吾君のウェイター姿が凄く格好良くて、見惚れちゃってて出された料理の味は正直あまり覚えていなかった。またここに来たいけど……私一人じゃ不自然だよね……。

 

 そうそう、食事中にしてたお話しなんだけど、殆ど正吾君の立ち振る舞いとか料理の感想とかがメインだったからここでは割愛。


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 そして、お会計を済ませ、お店を出る時、


「本日はご来店頂有り難うございました」


 と長く一礼して私達を見送った。私達が店を出た直後、正吾君がお店から出て来た。


「10分待っててくれるか? 俺、もう上がりの時間だから直ぐ着替えてくる」


 そう言って、店の中へ戻っていった。季節は春だがこの地方は夜になるとまだ寒い。


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「お待たせ」


 正吾君が合流すると大吾さんがここで解散を持ち出した。


「正吾、俺達はここで帰るわ」


「おい、荷物は……着替えはどうする」


「着替えなんて家に有るし、明日お前ら二人で俺達の荷物、午後にでも持ってきてくれ。午前中は駄目な。それと、明日は家に泊まってけ。晩飯に鍋でも囲おう。久々に日本料理たらふく食べたいからな。じゃあな」


 そう言って大吾さんは歩いて去って行った。ご実家はここから歩いた方がマンション戻ってまたご実家に行くより全然近いとのこと。近いと言ってもソコソコ遠いらしいんだけどね。

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