第53話 レストラン
―――夕方ちょっと前。正吾君はバイトがあるので出かけてしまった。私一人、正吾君の部屋で大吾さん達の帰りを待っていた。一人で正吾君のご両親を迎えるのはちょと緊張する。……大丈夫かな?
正吾君が出かけ、入れ替わるように大吾さん達が帰ってきた。多分、エントランスで正吾君と顔を合わせたんじゃないかな?
「ただいま。遅くなって悪かったね。今、下で正吾と会ったよ。御免な、丹菜ちゃん一人で俺達の相手させちゃって」
「お帰りなさい。いえ、気にしないで下さい。ちょっと緊張はしてますが……」
「緊張すること無いよ。所詮、ただのオッサンとおばさんだ ”イテッ” お姉さんだ」
おばさんの言葉に心花さん、大吾さんの頭をグーで殴った。大吾さん頭を掻きながら話しを進める。
「……まず、あの後どうなったか話すか……」
「……はい、お願いします」
「希乃ん所では娘の陽葵ちゃんも丹菜ちゃんの両親が居ないって話、知ってるって聞いてたから、丹菜ちゃんの事も含めてマスターに話しをして来た」
「———はい」
「その後、大宮の所に行って、希乃んとこの娘に大宮の息子を連れ出して貰って、丹菜ちゃんが瑠衣の娘と言う事も含めて君のお母さんの事を話して来た。だから、大宮の息子は君の両親は亡くなったという事は知らない。陸にもそれは口止めしている。これで大丈夫だったかな?」
「———はい有難うござます」
「俺から話す事は今は以上かな。そして丹菜ちゃんに聞きたい事は瑠衣の……お母さんのお墓の場所。それだけだな。あ、そうだ。位牌……ある? あるならお線香あげたいんだけど……いいかな?」
「あ、あります。えっと……私の部屋、ご案内します」
私は、大吾さんと心花さんを自分の部屋のリビングに案内した。私の部屋に入った二人は部屋の中を見渡すことなく位牌が置かれたチェストに真っ直ぐ行き、お線香を焚いて手を合わせた。
最近、この部屋にいる時間が短いけど、お父さんとお母さんはいつも一緒だから私がここに居なくても寂しくない……はず。
私はお父さんとお母さんが心配しないように、いつも明るく振舞っていた……けど、結局それは仮面でしか無かったって事に、正吾君と出会って気付いた。彼と出会ってから本当の笑顔を両親に見せる事が出来たと思っている。だから、この部屋に居なくても正吾君の傍に居ることを両親は許してくれるはずだ。
「丹菜ちゃん有り難う。部屋、戻ろう」
再び正吾君の部屋に戻ってきた。
「今日は俺達はこれで帰るよ」
「あ、お夕飯、一緒にいかがですか? 正吾君、7時半には帰ってくるんで……」
「いや、今、丹菜ちゃんを一人にするのはちょっと忍びないけど、向こうの掃除も少ししないと……寝る場所の確保だな……ただ、食材何一つ買ってないから今夜は外で……そうだ! 今から正吾のバイト先に行ってみないか? 息子の働きっぷり見たいし、丹菜ちゃん見たことある?」
「無いです。正吾君のお店、高校生だけで入れるようなお店じゃないんで……是非働いてるとこ見たいですね」
「よし! それじゃあ行ってみるか」
「はい。是非♪」
大吾さんと心花さんの二人はスーツケースからスーツを出して着替えた。
私も部屋に戻ってそれなりに
「それじゃあ、行こうか」
・
・
・
レストランまでの道のり、大吾さん達と並んで歩いたわけだけど、凄く不思議な感じがした。なんとなく、近い将来こんな感じでいつも一緒に居る予感? 特に違和感を覚えることも無く私の中に「ス……」っと入ってくる感覚があった。
レストランに着くまでに、正吾君の子供の頃の話しを聞かせて貰った。
「丹菜ちゃん、正吾の子供の頃の話し聞きたくないか?」
「え? 聞きたいです×2♪」
「ところがなぁ……話したいんだけど大したエピソードが無いんだよ……」
「そうなんですか?」
「小学生に上がる頃にはギター片手にジャガジャガやってたから友達なんていなかったしな。最初は物珍しくて寄ってくる子も居たけど、ギターなんて子供から見れば独特の世界だ。だからすぐ離れていったんだよ。あいつもその辺は気付いたのか学校ではそれなりに遊んでいたようだけど結局、自分から家に遊びに来る子は卒業するまで居なかったな。小学生の頃は六年間、家で一人でギター弾いているか
「なんか今と余り変わりないですね」
「中学に入ると、やっと周りが正吾の感性に近づいてな、ロック好きな友達が何人か出来たが、流石にバンドを組むまではな……大体、中学生が自分で数万円の楽器を買うなんて難しいし、俺みたいな親もそうそう居ないからな。あいつのいた中学では楽器を手にした子は居なかったな」
「それじゃあ本格的にバンド始めたのって……」
「ああ、高校に入ってからだ。正吾が高校に上がる前に俺達は既に海外に行くことを決めてたからな、あいつが高校に上がるタイミングで今までの住まいを引き払って実家のあるこの街に戻ってきたんだ。それで正吾を昔なじみの「Seeker」に連れてって、あいつのバンド活動が本格的に始まったわけだ」
「結構、孤独な子供時代だったんですね」
実家で暮らさずマンションで生活し始めたのは、家が大きくて管理出来ないからだそうだ。多分、そのまま生活していたら、ゴミ屋敷になっていたのは間違い無い。
ちょっとがっかりだったのは、以前、正吾君から聞いた子供の頃の話しと大して変わってなかったところだ。内緒話も特に無かった。
そんな話しているといつの間にかレストランに着いた。
レストランの入り口に着くと、大吾さんはレストランの扉を引き、私と心花さんを先に店内へ促し、そして、大吾さんは立ち止まっている私の右側へ立ち、黙って左肘を突き出し私に微笑んだ。
私は大吾さんに目をやり、心花さんを見て目が合うと心花さんは笑顔で頷いた。どうやら、大吾さんが私をエスコートしてくれるようだ。
私は黙って自分の右手を大吾さんの左腕に乗せた。多分これ、正吾君がやっても様にならない。年の功ってやつだ。
そのまま少し立っていると、店員が一人、私達の前に現れた……正吾君だ。
「いらっしゃいませ―――」
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